恋でも、
愛でもなく、
感情を通さずに
アタシの心に焼き付いて
消えない人がいる。
どんなに逢えなくても、
どんなに声が聞けなくても、
忘れることなんて出来る訳がなかった。
誰とキスしても、
誰とセックスしても、
心の奥で彼を感じていた。
手に乗ればすぅっと消えてしまう
儚い雪が
はらはらと舞って
徐々にその存在を明確にし、
いつのまにか自分を覆い尽くす。
太陽はその熱い力で
白い雪を溶かすけれど、
アタシに降り積もる雪は
溶かしてくれなかった。
彼には
私に降り積もる雪が
見えていたのでしょうか?
彼には
雪どころではなく、
私すら見えなかったように想います。
それでも、
アタシの雪を溶かしたのは
いつも、
いつも
彼の温かい瞳と腕だった。
2回。
18年間で2回だった。
2人だった。
"愛してる"
そう想ったのは。
説明しろなんて言われても
困惑する事しか出来ないけれど、
"愛してる"
そう、想った。
そういえば、前に感じたときも3月だった。
別れの象徴、
卒業式。
むかつくくらい細かった先生に。
けれど、今は違う。
別れでも悲しむ事でもない
むしろ、
幸福なコトに
歩けない
そう言ったのは、
彼の中に
私の心に降り積もる雪と同じものを
見たからです。
彼が結婚しても
惹かれ合う彼と、私の
心を感じたからです。
帰らなきゃ。一緒には行けないよ...
そう言った私を北口に置いて
彼は階段を上って行き、
私が顔を上げた時
既に彼の姿はなかった。
きっと
ずっと
同じ気持ちだったんです。
タクシーはたくさんあるのに
彼は南口にいました。
まるで、
誰かを待っているように。
彼の姿がないことに気付いても、
スグにクラス会の場へ戻らなかったのは
私を迎えに来てくれる彼を
期待し待っていたからです。
彼が
一緒にはいられないと解っていても
スグにタクシーに乗らなかったのは
追いかけてきてくれる私を
期待し待っていたからです。
彼が無言で渡した
ビニール袋に入った白い紙袋。
中には小さなカワイイ靴。
彼が愛おしそうに撫でた
アタシの足にぴったりの
小さなカワイイ靴。
つま先がキラキラ光を反射した。
アタシの部屋に眠る
彼の誕生日に渡せなかった
赤い包装用紙に包まれたジッポ。
大好きな
煙草に火を付ける横顔に
アタシの一部も加えて欲しくて
一生懸命選んだジッポ。
光らなければ存在を示せないのに
光を反射することもなく
眠るジッポ。
ねえ、私はアナタの雪溶かせていた?
チビだけど、意地っ張りだったけど
私の雪、アナタが溶かしてくれていたように
私もアナタの雪溶かせていた?
「おまえ早くいい男見つけろよ〜」
「んなんいないよ!
てか、そっちこそ早く結婚しなよ〜」
「おまえ、俺のコト嫌いになった?
なんで全然電話くんないんだよ」
「その言葉、そのまんま返すよ。
私からかけられないよ。
電話くれればよかったじゃん...」
「なんでだよ。俺がおまえに電話したら
変なおっさんが女子高生に手出してるみたいだろ!?」
「 笑 」
「変なおっさん → 女子高生
バカ・変な女子高生 → おっさん
どっちかって言ったら
後の方がまだいいだろ!?(笑)」
バカにも変にもなれるほど
簡単でも、純粋でもなかった。
いつも、いつも、
踏み出せない理由は同じ。
想う気持ちは同じものだった。
不安さえ同じものだった。
おめでとう
素直にそう言えたのは、
私が少しでも大人になったからと
そう思っても良いですか?
息が詰まりそうなほどの
雪が降り積もる事が解っていても
掛川に行って来るんだ
落ち着いてそう言えたのは
私が少しでも自分を確立できていると
そう思ってもいいですか?
もしもしよりも先に
まい、まい?
私の名前を呼ぶ声。
これほど愛しい人はいなかった。
みんなの前で大泣きしたのは
彼の雪を見つけた今が、
決別の今だったからです。
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