訃報 |
16日の午前4時、 まだ外はほの暗く、 街灯がボンヤリと灯っているそんな頃、 あたしは独り家でビデオを観ていた。
前日は早番で5時起き、 しかも寝たのは日が変わってからだったというのに、 不思議と眠くなかった。
寝つけなくてビデオをつけた。
1週間分撮りだめしていたビデオをぼんやりと眺めながら、 なぜだか嫌な予感がした。
・・・だめだ、寝なきゃ・・
ビデオを消した。
電気を消そうとリモコンに手を伸ばすと、 突然部屋に響く電子音。
RRRRRRRRR・・
「もしもし?のりちゃん?」
「お母さん?どうしたの?こんな夜中に。」
時刻は4時半を回っている。
「おばあちゃんが亡くなったの」
祖母は以前より病気で長くはないと診断されており、 覚悟をしていなかったワケじゃなかった。
でも・・
「朝イチでそっち帰るね。」
「うん、弟を空港にやるから、 拾ってもらって一緒に来なさい。」
「9時には空港に着くから。」
朝イチは7時45分発。 いてもたってもいられなくてそのまま布団を跳ね除け、 お風呂をわかした。 その間に会社に電話をかけ、 忌引で休みを頂く旨を伝えた。
受話器を握る手が震えた。
落ちつくために湯船に浸かった。 ガタガタと震えた。 信じられなかった。
6時に家を出た。 取るものもとりあえず、 鞄ひとつをひっさげで空港に向かった。 手持ちのお金は1,500円。
ATMなんてどこも開いてなかった。
104で航空会社の電話番号を聞いて、 駅で電話をかけた。
「クレジットカードでいけますか?」
空港に着いて、 朝ご飯を食べていなかったことに気がついた。 お腹も空いていなかったが、 そもそも一睡もしていないのだから 体調なんていいワケがない。
とりあえずおにぎりをひとつ買い、 飛行機に飛び乗った。
弟に空港で拾ってもらい、 母の実家へ急ぐ。
祖母はすごく痩せていると聞いていたが、 どんなにがんばって思い出しても、 あたしの中の祖母は美人で、笑っていた。
怖くなった。
死、そのものよりも、 その亡骸を目の当たりにすることが怖かった。
変わり果てた姿を見たくなかった。 どんなに酷い行為だと分かっていても。
着いてから、 祖母の眠っている部屋に通された。 祖母はもともと小柄だったが、 横たわった姿はほんとうに小さかった。
顔には白い布がかけられていた。
「顔を拝んでやり」
と父が言った。 怖くて布を持ち上げられなかった。
それでも、 それでも深呼吸をして、 意を決して布をはずした。
・・・・
夏に祖母を見舞った時と比べて 半分くらいになっていた。
目は落ち窪み、 痩せ過ぎで口は閉じていなかった。 でも、相変わらずのシミひとつないキレイな肌だった。
怖いというよりも、 なぜかすごく悔しい気持ちだった。
こうなる前に なにかできたんじゃないだろうかと思った。
「何か」がどんな意味で使われているのか 自分でも分かっていないけれど。
こんなに痩せ細ってしまって、 それでもあたしたちは祖母に生きて欲しいと願う。 どんな姿でも、生きていてほしいと思う。 祖母の本当の幸せがそこにないとしても。
御通夜は滞りなく過ぎ去った。 夜は祖母と同じ部屋に寝た。
線香を絶やさないためだ。
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2003年10月17日(金)
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