凪の日々
■引きこもり専業主婦の子育て愚痴日記■
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とても些細な事すぎて笑っちゃうけれど。
アイが、繋いだ私の手を「離していい?」と聞いた。
アユムが生まれてから、片手にアユムを抱いて、片手でアイの手を繋いで歩いていた。
アユムが歩くようになってからも、片手にアユム、片手にアイ。 そうしないと、アイが寂しがると思っていたから。
アユムを抱いて歩く私の後ろを、アイが一人トコトコと歩いて来る。 後ろのほうへ手を差し出すと、何も言わなくてもアイの手がスッと私の手の中に入ってくる。 私とアユムの背中を見ながら一人歩くのは寂しかろう、と、いつも、二人の手を握って歩いていた。
アイもアユムも大きくなり、三人で手を繋いで歩道を歩くのは、周囲へのマナー上難しくなってきた。 それでも、人通りが少ない道などで、今ならよかろう、と思う時などは、できるだけアイも手を繋いで歩くようにしていたのだけれど。
今年、正月初詣の境内。 はぐれまいと両手に子ども達の手を握っていたら、アイが「ねぇ邪魔だから手を離していい?」と聞いてきた。 邪魔というより、片手がふさがって不自由だから、と言いたかったんだろうと 思う。
「あ、そう?ごめん」とアイの手を離した。 それだけ。
もう、アイの手は繋がなくてもいいんだ、と思った。 もう、私とアユムの後姿を見ながら黙ってついてくる小さな女の子じゃないんだ。 アイは、私とアユムの後ろを歩きながらも、見たいものを見て、触りたいものを触って、自分の世界を感じながら歩いてくるんだ。 そしていつか、私の前を歩きながら「お母さんこっち」と自分が行きたい道を教えてくれるようになるのだろう。
勿論、今でもアイはずっと私やアユムの後ろを歩いてばかりの子ではなくて、ちゃんと先に自転車で帰ってしまったり、「先に行っとくね」と目的地迄さっさと行ったりはしているけれど。 そうじゃなくて、
アイも、成長してるんだ。
今年は、もう、アイの手を繋がないで、一緒に歩いて行くようにしよう。 そう感じた新年。
思えば初めての子育ての愚痴を吐き出す為に始めたこの日記。 読み返すと我ながら暗く不快になる事ばかり書き並べていた。 そろそろこの日記も終わりにするべきなのかもしれないな。
今年のお正月休みは長かったので、早めに里帰りを済ませたのだけれど、おかげで初めて、夫の生家での餅つきを体験させてもらった。 うちの地方ではお餅は大体12/28につく。 29日の餅は「苦がつく」と嫌われる。 どんなに早めに里帰りしても、28日にはなかなか行けなかったのだ。
餅つき当日は、午前中は義弟夫婦宅の大人は皆、畑仕事。 私達が着いた午後には家は留守番の子ども達だけだった。 「今日は餅つきするから三時前には帰ってくるって」と子ども達。
朝早くから畑仕事して、帰宅するなり餅つきなんだ。 それから夕飯の用意したりするんだろうなぁ。 なんて忙しく大変なんだろう…と驚愕。
畑から帰宅した義弟さんは、小屋から鉄製のかまどを庭へ引っ張り出し、椅子に座ると薪をくべ始める。 昨夜から洗ってあったのであろうもち米を、蒸篭(せいろってこの字?)にせっせと移す義母さん。 義妹さんはどうやら餅つきはノータッチらしく、台所でなにやら家事。
燃え盛る火、というものを見る機会がないアイはこわごわ火の傍に。 子ども達は薪をナタで割る練習。 集合住宅暮らしでは絶対体験できないお正月を迎える家庭の姿。
「いつお米が出来上がったって分かるの?ブザーがなったりしないんでしょう?」とアイ。 火の番をしていた義弟さんは笑って「この湯気が蒸篭の上までいったら目安の一つ。後はもち米の匂いがしてきたら一番下の蒸篭のもち米は蒸しあがったって事」と答える。 ブザーでもタイマーでもない。目と耳と鼻と、五感を使って体で覚える事。 そういうのが、我が子には欠けているよなぁとあらためて思う。 そういう機会を作らないと、知らないまま育ってしまうんだよなぁと。
薪をくべながら、弟さんは煙草を一服。 「火の番はオヤジの仕事だったなぁ」と呟く。 義父さんが亡くなって二回目のお正月。 餅つきの日に里帰りした事がなかったので、火の番をする義父さんの姿は私は見られないままだった。 燃える火を眺めつつ、畑仕事で疲れて凍えた手足を温めながら吸う煙草は、さぞかしおいしかったのでは…と想像。
義弟さんと義父さんは体つきがそっくりなので、義弟さんの姿と義父さんが一緒に見える。 あるいは、一緒にいたのかもしれない。
蒸しあがった餅は、餅つき機へ。 流石に畑仕事後に臼と杵でつくのは無理というもの。 つきあがった餅を皆で台所でせっせと丸める。 台所といっても八畳はあろうかという広い部屋。 広さ的にはリビングキッチンというべきなのかもしれないけれど、あくまで家事をする作業場で、くつろぐ部屋ではないので、やっぱり「広い台所」。 熱い熱い、といいながら、皆で丸め、出来上がった餅は次々と座敷へ運ぶ。 それをアユムがキレイに並べようと手伝う。
開いた蒸篭をお湯につけ、餅を丸めに台所へ行くと、義妹さんが「アユムちゃんってひょっとして霊感がある?」と聞いてくる。 アユムは座敷で、並べた餅を更にキレイに並べるという、頼みもしないお手伝いを一人していたのだけれど、そのアユムが「誰か男の人がいる」と皆の所に言いに来たのだそうだ。 勿論、座敷に男性が居るはずはなく。 「じいちゃんが見にきたんじゃないか」と皆で話してたそうだ。
別に霊感らしいものをアユムに感じた事はないけれど、まぁ意味不明の事は良くしゃべる。 そう言うと「子どもだから何か見えるのかもね」と皆、笑顔で話している。
義父が来ていたかどうかは分からないけれど、そう思うと楽しいよね、と思う。 「餅がちゃんとつけたか気になって見にきたんだろう」と皆が笑う。 そうだね。そうかもしれないね。
「つきたてがおいしいから」と丸めながら餅を食べる。 あんこ餅まで食べたらあっというまに三個はぺろりと食べてしまった。 餅が大好きなアイとアユムもご満悦。
またいつか餅つきを手伝える日がくるだろうか。 くるとしたら、それは何年後なんだろう。 その時、皆、どうしてるんだろう。 頬を白くして餅を頬張っている子ども達は、成人しているんだろうか。
良い思い出になった餅つきだった。
暁
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