V字経営研究所・酒井英之の4行日記 DiaryINDEX|past|will
大相撲の元稀勢の里の荒磯親方の相撲の解説を聴いた。とても楽しそうな表情で、一生懸命語っているのを聴いて、彼が横綱・大関時代にとても無理をしていたのではないかと思った。貴乃花親方もそうだったが、横綱は「こうであらねばならない」という周囲が作り上げたイメージに自分を合わせるために、自分の我を殺す宿命を背負う。彼らにとってそのイメージを押し付けてくる横綱審議委員会は、高校の風紀委員と同じくらい鬱陶しいものなのだろう。素でいられないほど苦しいものはない。稀勢の里も貴乃花も、これからは地を出してのびのびやって欲しい。
二世経営者に「イノベーションの起こし方」の3時間セミナーを行った。リーマンショックから約10年。今、良い業績を誇る会社はいずれもオンリーワンと呼ぶべき安定した良い経営をしている。そのため、「何かを変えないといけない!」という危機意識が薄い。その中でいちばん危機意識を持っているのが30代以下の二世経営者だ。彼らは、「健全な危機意識」を強く持っている。そして20代の若手社員の「革新したい」意欲を強く持っている。しかし、彼らの意欲は、必ずと言っていいほど過去10年間で盤石な経営を築いた老経営者たちに跳ね返される。平時に置いてイノベーションを起こすのは難しい。危機にならないとその時は訪れないのかもしれない。
革新を生み続けている老舗企業の社長は「やってみろ。お前の失敗は俺が面倒見てやるから」と社員に声をかける。なんて温かく、人を勇気づける言葉なんどだと思う。私はブラザーを辞めるとき、当時の役員に「いつでも帰ってこい」と言われた。また開発部長には「俺が最初の客になってやる」と言われた。挑戦するとき、何か一つでも保証があると(仮それが空手形でも)本当にありがたい。だから、この言葉のありがたみがものすごくよくわかる。社長は「『やれ』と言わない限り、枠からはみ出す『やりすぎ社員』は出て来ない」という。はみ出し社員を育てるのも社長の仕事だ。
110年続いた鮮魚問屋の社長は、「老舗こそ革新」という。長く経営しているとピンチの時が訪れる。それをチャンスに変える。その連続なのだ。例えば大きな取引先の店舗改装の影響で、魚を加工する加工場がとても小さくなった。これだと店頭に十分に商品を並べることができない。そこでセントラルキッチンを創って納品するようにした。ただし、セントラルキッチンのキャパは大きく、その取引先だけでは赤字になってしまう。よって半製品で納品できる新たな取引先を開拓する。こうして同社は大きくなっていった。このような変革をするときは、過去の繁栄を知る人から必ず反対されるが、後から「あれはやめて良かったな」と言われるという。「老舗こそ革新」という実践者の言葉は本当に重い。
110年以上続く老舗の鮮魚問屋で、回転寿司チェーン店も経営している会社の社長は、毎週土曜日のみ朝1時半から厨房に立ち包丁を握り、魚をさばくという。それをしないと「自分が何屋なのか忘れてしまう」からだ。そのため社長は土曜日のゴルフには参加せず、日曜日だけ参加するという。このような姿勢の社長を社員はどのように見ているのだろうか。社長が社員からリスペクトを集めるのは、こうした生き方によるところが大きい。
ニッチトップをとるために何が必要なのか、話す機会があった。その中で、伝え忘れたことがひとつあった。それは「このビジネスは誰に何をするビジネスなのか?」と「どうやってそれを届けるのか?」を考える必要があること。前者は伝えたが、後者を伝え忘れていた。近年はIT等が進化して、メーカーが直でお客様の受注ができる時代だ。また、流通が「内が売れているのか」の情報を膨大に集めることができる。そのため、旧来型の届け方では通用しなくなっているし、QCDSを磨いても「伝え方、届け方」が不味ければ宝の持ち腐れで終わる。次は「どうやってそれを届けるのか?」の重要性を伝えたい。
不動産屋の社長と話す。不動産業にとってSNSでの情報発信、更新は営業上きわめて重要なツールだ。しかし、社員がなかなか更新しない。そこで社長は、SNSを更新することを人事評価制と結び付け、更新頻度が高い人を高く評価し、賞与が高くなるようにした。すると、皆競ってSNSアップをするようになったという。現金な話だが、これがきっかけに「SNSアップ→反応増える→来店客増加→お客様の笑顔が増える→面白い」となったら、そこから先は賞与の為ではなく「面白いからやる」に変わる。そこに至らしめるには、こうした仕掛けも必要なのだ。
ある会社の二世経営者は大みそかの夕方に会社に出社し、年越しを会社で迎える。年越しの前には神棚を清め、年越しと共に手を合わせ、新年の繁栄と安全を祈願するという。これは先代であり創業者である現会長の言いつけ。経営者たる者、新年は社内のだれよりも早く出社し、祈るものでないといけないという。一人、紅白歌合戦も見ず、誰もいない会社に大みそかに泊まり込むのは勇気のいることだろう。家族の理解を得ることも難しいかもしれない。が、社長の覚悟とは、頭で理解するものではなく、このような理解しがたい行動を通じて自分の中に落とし込んでいくものなのだろう。
「彼は、事業はできるが経営はできない人だ」。ある会社をM&Aした会社の社長が、買収をした会社の社長をこのように評価していた。「事業」と「経営」の違いがわかっていないと言えない言葉だ。事業は、お客様の問題を解決し価値を生むことを言う。例えば、ポテトチップを生み出し、量産し、世に普及させることが事業だ。一方経営は、その「生み出したもの」半永続的に繁栄し続けるコミュニティ・仕組みを作ることだ。ポテトチップを世界中の人が10年後も同じように手軽に買えて、しかも美味しく食べられるよう自らの理念に基づいて永続的な仕組みをつくることを言う。事業と経営の違いをこのようにイメージできている経営者は、会社を発展させることができる。
某大手企業の研修で、社員が理念を共有しベクトルを合わせて進むことの大切さを説いた。するとある受講生が「会社が大きすぎて、価値観もバラバラだから無理ではないか」と語った。確かに現状そういう側面はあるが、問題は「だからできない」と思うのか、「それでもできるようになる」と思うかだ。その受講生には自責と他責の話をした。「他責で考えているうちは何も変わらないよ」と伝えたら、彼はすぐに自分の過ちに気が付き、研修終了後わざわざ挨拶に来てくれた。その素直さが嬉しかった。
|