せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2006年04月02日(日) 「ミッシング・ハーフ」稽古

 3場の稽古。まず読み合わせをして、流れを組み立てていったあと、2場、3場を通してみる。いろいろなことが見えてくる。何をしなければいけないか。ここまでの気持ちの変化など、人物のかかわりあいのデリケートな変化のしかたも。
 稽古のあと、予定していた花見は雨のため、稽古場でということに。
 大門さん手作りの牛スジの煮込みとこんにゃくとするめの煮物などをさかなに楽しくおしゃべりする。
 フライングステージからは早瀬くんが来てくれた。
 音響の鈴木さんが音源を届けてくれる。なんでこれとこれが同じ芝居に?というような、バラエティにとんだ音がいろいろ。
 美術の小池さんと、うちあわせ。小池さんが資料をいれていたクリアフォルダーに描かれていた、カラバッジオの「ナルシス」がきっかけで、絵や芝居の話をいろいろする。好きなものは何かという、楽しいおしゃべり。


2006年04月01日(土) 「ミッシング・ハーフ」稽古

 花見日和。いい天気。バスに乗って北越谷に出る。駅前は人でいっぱい。
 元荒川の土手の桜を見に来ている人たちだ。駅の向こうに出て、少し歩くと、そこはもう桜のうわった土手。みんな、おだやかなやわらかい表情をしている。
 日比谷線から大江戸線に乗り換えの御徒町の駅で定期を落としたことに気がつく。のりつぎ精算のキップを買ったのまでは間違いがないが、そのキップもない。コンコースを後戻りしたら、キップは落ちていた。定期はどこだ? 日比谷線の改札に行って「届けられてませんか?」と聞いてみるがない。まさか……と思い、改札内の精算機を見せてもらう。使い切ったパスネットを入れる箱に、さっき入れたパスネットと「ぴったり重なって」定期券があった。やれやれ。
 稽古は2場を中心に。森川くんとのやりとりのあと、大門さんとのからみ。不思議な時間が流れる場面になった。同じ場面に無理矢理、全然違う時間が割り込んでくる。それを当たり前のようにしているカラダのいかたが、気分をふわっと持ち上げてくれる。
 帰り、森川君と大江戸線で一緒に帰ってくる。定期の話をしたところ、「パスネットは絶対あの箱に入れちゃだめだって」とさとされる。たしかに。
 夜は自主缶詰。越谷にて。


2006年03月31日(金) 「ミッシング・ハーフ」稽古

 稽古場に、ミラクルのオーナーである、メッセージの社員、マツダリクさんが顔を出してくれる。今回、彼にはとってもお世話になっている。どうもありがとうございます。
 いっこうちゃんもきてくれる。見られていることにやや緊張しながら、がんがん芝居しきってしまう。
 稽古は、森川くんの登場シーンから。そのあと、大門さんの2つのキャラクターを順に演じていってもらう。
 音響の青木さん、舞監の中西さん、美術、衣装の小池さんが来てくれる。打ち合わせ。具体的なイメージに背中をどーんと押されたような気持ち。


2006年03月30日(木) 連想のゆくえ

 稽古はお休み。これでもう何度目かの「モロッコ」のDVDを見る。
 今回の「ミッシング・ハーフ」は、もともと考えていたイメージに、次から次へといろんな連想が重なっている。
 映画がサイレントからトーキーへ移行するなかで、仕事をなくした「女形」というのは、オリジナルのイメージじゃないかとは思うのだけれど、これにはやはり悪声ゆえに失敗する「雨に歌えば」の中の悪役女優リナ・ラモントのイメージがある。
 でも、サイレントからトーキーへ移り変わる時代というのを初めて知ったのは、「雨に歌えば」ではなく、実は市川崑の「悪魔の手毬唄」だ。
 殺人事件の大きなきっかけになる背景として、仕事をなくした活動弁士の話が登場する。
 僕は、中学生の頃、映画小僧だった。ラジオの深夜放送を聞いては試写会に応募をし、前売り券をいつもポケットに入れては、銀座や上野の映画館に出かけていた。市川崑の横溝シリーズはほぼリアルタイムで見ている。「獄門島」「女王蜂」「病院坂の首縊りの家」あたり。
 小学生の頃から、赤いシリーズに登場する「パリのおばさま」役の岸惠子が大好きだった。同様に耐える母親役の草笛光子も。テレビシリーズの「犬神家の一族」の京マチ子、それに、有吉佐和子原作のドラマ「悪女について」の主演、影万里江も大好きだった。あこがれの女優というと、若いアイドルに行きそうところ、僕はなぜか、大人の女優さんにばかりひかれていた。
 「悪魔の手鞠唄」には、映画「モロッコ」が登場する。最初に字幕、スーパーインポーズが入った映画として、ラストシーンがそっくりそのまま挿入されている。
 これは僕が初めて見たマレーネ・ディートリッヒだ。今回の「ミッシング・ハーフ」は映画女優についての話なので、最初のプランの中には、当然のように「モロッコ」そして、ディートリッヒがいた。
 そして、モロッコといえば、カルーセル麻紀さんの性転換の手術で有名な地名だ。これは、僕らの世代だけかもしれないが、今でも、モロッコ=性転換という連想は共有されているような気がする。
 「ミッシング・ハーフ」の主人公は、文字通り、女になろうとするので、僕は、彼女に大きな影響を及ぼす映画として、何の迷いもなく「モロッコ」を選んだんだった。
 いっけんバラバラなイメージが、微妙につながって、一本の芝居になっているのは、何だかとても不思議な気もするし、まったく当然のことのような気もしている。
 歌舞伎の趣向でいえば、これは「吹き寄せ」というものかもしれない。一つの世界に、あるイメージを共有する、全く関係ない世界の人物が平気でまぎれこんでくる。
 つながったイメージの先にどんなオリジナルの世界が生まれてくるのか。そこからが何より肝心だ。
 はじめのうちは予想もしなかったのだけれど、ずっと昔からの映画へのあこがれがオマージュとして実現したような舞台になるのかもしれない。
 大切にに、そして大胆につくりあげていきたいと思う。


2006年03月29日(水) ネットのおかげ

 今日は稽古はお休み。
 十数年前にミュージカルの舞台で共演した古い友人からメールが届いた。
 びっくりするくらい昔の話だ。
 ネットサーフィンをしているうちに、僕の日記、フライングステージのサイトにたどりついたそうだ。
 とっても懐かしい。うれしくて、すぐに返事を出した。
 彼は、今、アメリカ在住とのこと。
 ながい時間もはるかな距離もなんでもないことのように思えてしまう。
 これも、みんなインターネットが普及したおかげだ。
 このあいだ卒業した富士見丘小学校の子ども達が、ネットで僕のことを知っていたということが、最近わかった。
 その上で、つきあっていてくれたんだねと、とてもうれしく、ありがたい。
 これもまた、ある距離をちぢめてくれるのに、ネットの存在が役にたったということだと思う。
 今回の「ミッシング・ハーフ」は調べなくてはいけないことがいっぱいで、本だけを頼りにしていたら、とてもじゃないけど、書けなかったと思う。本を探す、その前に、僕はネットで検索をしていたくらいだから。
 今日は急にとっても寒くなった。
 灯油はきれいに使い切ってしまったところなので、ヒーターのお世話になる。
 花冷えの日だったけれど、うれしいメールで心があたたかくなった、そんな一日。


2006年03月28日(火) 「ミッシング・ハーフ」稽古

 稽古5日目。
 今日は森川くんはお休み。
 昨日の稽古のあとの実寸のテープで、位置と動きの確認。ドアの位置が反対になったのでその調整。それよりも、部屋が微妙に正面向きではなくなったことから来る「正面はどっち?」なかんじに少し戸惑う。
 冒頭の大門さんとの場面の確認をしたあと、一休みしてから、大門さんの2人目の人物、キャラクターでいうと3つめ、四世沢村源之助が登場する場面。
 読み合わせのあと、立ってみる。といっても、ずっと座っているような、座敷での芝居。基本的には洋間でくり広がるこの芝居に、突然割り込んでくる座敷。市村座の楽屋。
 新派や大衆演劇のテイストをおもしろがりながら、とりこんだ場面。大門さんには伝説の女形を存分にやってもらう。
 サイレントからトーキーに時代が移るなか、世の中の「女形」という人たちがどうしたかということが描かれる。対照的な2人の女形が、丁々発止のやりとりをする。
 今日もまた書いたときには思いもよらなかった気持ちになってしまう。恥ずかしいのだけれど、芝居をしながら泣けてきてしまった。僕がじゃなくて、劇中の川野万里江が泣いていた。
 思い切って書いた七五調のセリフのおもしろさとおかしさを、どう活かすか。どっぷり浸ってしまわずに、突き放して演じることを、僕は考えなくてはいけない。
 それでも、また一つおもしろい場面ができあがりつつあることは間違いない。川野万里江がたどった道すじが、また一つ、僕のからだにしみてきた。そんな稽古。
 今日は稽古場に、早瀬くんが来てくれた。紹介、挨拶のあと、ずっと稽古を見ていってくれる。いつものフライングステージとは全然違う芝居になっててびっくりしたかもしれない。
 雨が降る中、駅までおしゃべりしながら歩き、僕は樺澤氏と制作のうちあわせ。
 最寄り駅についたのは0時過ぎ。雨はすっかり上がって、星が光ってる。
 駅前のセブンイレブンで、注文して置いた本を受け取る。たぶん、これが、本番までにぜひ読んでおきたい本の最後の一冊。
 家までの道を少し早足で歩き、少し汗をかく。もうそんな季節になったんだ。
 


2006年03月27日(月) 「ミッシング・ハーフ」稽古

 稽古4日目。
 今日から、歌舞伎町のスタジオ、ミラクルでの稽古。
 公演も打てるスタジオでの贅沢な稽古。サンモールスタジオの実寸がとれるメインのスタジオに、広い楽屋も。フライングステージの稽古で、あちこち移動しない稽古場というのは、初めての経験。
 劇団制作社のみなさんが、ていねいに稽古場づくりをしてくれて、ほんとうに気持ちよく、稽古ができる環境になった。もともとがステキな空間なので、「さらに」というかんじ。
 照明の青木さん、舞台監督の中西さんたちが来てくれての稽古。サンモールスタジオの吉田さんも顔を出してくれた。
 大門さんにやっていただく三役、厳密には時代が変わるので四つのキャラクターの二番目の人物が登場するシーン。
 読み合わせて、すぐ立ち稽古。というか、読みながら、荒立ちにどんどんさせてもらってしまう。
 場面は、川野万里江が女になるための手術をしようとする場面。時代背景やらややどきつい描写が続く、暗くヘビーな場面をぼくは書いた。
 それが、大門さんとのやりとりの中で、思いも寄らないドラマのスジが見えてくる。暗いだけじゃない、切なさもにじんでくるような。不思議なかんじ。稽古してみて、はじめてわかる「あ、こんな場面を書いたんだ」という新鮮な驚き。
 続いて、冒頭からの場面。森川くんとのやりとりを中心に。突き放した軽さのようなものをさぐっていく作業を一緒に。
 稽古のあと、美術、衣装の小池さんも加わって、スタッフ打ち合わせ。
 装置の基本デザインを決めて、中西さんたちは、さっそく実寸の寸法を床にテープでとっていってくれる。
 明日からは、ここで実寸での稽古。ほんとうに恵まれた状況に感謝しながら、いいものを作り出していかなくてはと、改めて思う。
 帰りは、佐久間さんと総武線。地元の亀戸の昨今について、いろいろおしゃべりする。


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