せきねしんいちの観劇&稽古日記
Diary INDEXpastwill


2006年09月23日(土) 「許しつづける女たち」稽古

 続きの台本をとにかく書いている。
 全体の構成とはりめぐらした人物の伏線の改修にとりかかる段取りで、数学の問題かパズルを解くような頭の使い方をしている。
 結局、これが正解というものにたどりつかず、今日も新しい場面を保留させてもらう。申し訳ない。
 3場のラストで、何が起こるかがとても大事で、ここにどんなコマをはめるかで全体像が大きく変わってくる。ピシッとはめて、一気に芝居が動き出すにはどうしたらいいか。久しぶりにパソコンを前にうなる。
 稽古は、そんなわけで、小返しを中心に。
 久しぶりのタマキちゃんの登場シーン、最後の登場人物、スミケンのキャラについてをいろいろと。
 美香ちゃんのキャラがぐーんと大人っぽくなってびっくり。どう作ろうかではなく、やりとりをつづけていくうちにできあがってきたかんじがおもしろい。
 続く、3場の冒頭、稽古の続きで2場の終わり方を踏まえてくれるかなとお願いしたマチャと有賀くんのやりとりが、とっても軽やかにはずんできた。とても楽しい変化。
 その後、登場した美香ちゃんは、大人なかんじがそのままで、登場したスミケンとのやりとりのベースが、きっちり見えてきた。いいかんじだ。
 今日はスタッフ打ち合わせ。稽古を早めに上がって、千歳船橋から三茶までバスで移動。竜太郎さんと美香ちゃんと一緒に。
 舞監の田中さん、音響の鈴木さんと、打ち合わせ。
 まだ完成してない台本を前に、もろもろの確認。
 とっても早い土曜の終電のせいで途中でばたばたと失礼する。駅まで走って、ぎりぎりで間に合う。
 終電の中でずっと膝を抱えてうつむいていたリーマンのお兄さん。ゲロというか黄色い液体をテロテロと吐いて、次の駅で降りていってしまった。僕は少し離れたところだったので、被害なし。匂いもそんなになかったので、逆に近くまできてびっくりする人が続出。空いたシートに近寄っては驚いて離れていく。ミュールを履いたほろ酔いの今時のギャル×2がもろに踏んづけて大騒ぎ。お気の毒でした。


2006年09月22日(金) 「許しつづける女たち」稽古

 久しぶりに1場の稽古。前にとっても苦労していた動きが、するっと当たり前に出来ている。芝居が体になじむというのはこういうことなんだろう。
 前は、客席を意識しないで、まずは相手との関係だけでそこにいてほしいと言っていたのだけれど、今日は、見え方を考えて、立ち位置や動きを整理していく。
 1場前半は有賀くんが舞台を引っ張っていく。前に進むことと、セリフを相手にかけていくことをきっちり意識してほしいとお願いする。
 初めのうちは、さらさらした印象だったのが、稽古の後半になって、芝居が生き生きと動き出した。この違いはなんなんだろう? この違いをきっちり言葉にして伝えるのが演出の仕事なんだろうな。
 ピンポイントで登場するアカネちゃん、それにツナコが、一回毎に新鮮に芝居をしてくれていて、おもしろい。
 最後に一度通せるかなと思ったのだけれど、今日はここまで。
 先に進もう。


2006年09月21日(木) 金木犀

 仕事のため、急遽稽古をお休みさせてもらうことに。ほんとうに申し訳ない。
 昨日から風のなかにキンモクセイが匂っている。ずっと昔、世田谷で独り暮らしをしていた頃、その年はじめてキンモクセイの匂いを感じたのは、9月15日だった。以来、9月15日にはそんなことを思い出すのだけれど、近頃は、10月になるまでなかなか匂ってくることはなかった。今年はちょっと早い気がする。
 匂いの記憶と一緒に、とっても一人で部屋にいたあの頃の自分がいつも思い出される。ちょうどフライングステージを始める前、芝居をやめていた時期だ。
 夜、ほっかりと時間が空いた。なんだかとってもひさしぶりなかんじ。少し落ち着いて台本を読み返し、書き進めていく。
 夜中、外から猫のケンカする声が聞こえてくる。うちのもいるんだろうか? ずいぶん遅くなって帰ってきた猫は、怪我はしてなかいものの、毛並みが荒くなっていて、やっぱり暴れてきたんだねえというかんじ。


2006年09月20日(水) 富士見丘小学校演劇授業 「許しつづける女たち」稽古

 富士見ヶ丘小学校の演劇授業。子供たちに書いてもらったお話をもとにした、発表のための授業の第一回目。
 朝から気持ちが落ち着かなくて、6時に起きてバタバタする。途中、新宿線が遅れて、昨日平田さんと早めに行きますと言ったのに結局ぎりぎりになってしまいそうになる。富士見ヶ丘の駅から平田さんに電話したら、「今日は3,4時間目ですよね」と言われる。1時間早く出てきてしまった。駅前のドトールで一息ついて落ち着いてから学校へ。
 今日は、篠原さん、青井さん、健翔さん、里沙ちゃんと、これからの授業で一緒に芝居をつくっていく大人が勢揃いした。
 校長室で子供達のお話の感想を言い合ったあと、特活室へ。
 渡り廊下で、六年の女子に「あ、メガネない」と言われる。「こわしちゃったんだよね」「私、ちゃんと見える?」「ビューティフルに見える」「よし!」とおしゃべり。
 授業は、篠原さんがちゃっぴーこと小林くんの書いてきたタイムマシンのお話をもとに構成したテキストを使う。お父さんが発明したタイムマシンに子供たちが乗って未来に行くお話。原作の登場人物が生き生きとおもしろく立ち上がっている。簡潔なわかりやすいセリフには、今時の言葉使いが自然にはいっていて、聞いていてもとても楽しい。
 初めにみんなが書いてくれたお話がどれもとてもおもしろかったこと。今年はその中から何本かを選んでそのまま使うというのではなく、あちこちからおもしろいところを集めて芝居をつくろうと思うこと。まだどんな芝居になるかわからないけど、今日はみんなの書いたお話がこういうふうに台本になるんだよということがわかってもらえるよう、小林くんのお話をみんなで演じてみたいと思います。ということを話す。
 まずは里沙ちゃんによるウォームアップ。扉座の豊橋でのワークショップ公演の準備から戻ったばかりの里沙ちゃん。子供達のまとめかたがとてもすてきだ。
 その後のテキストを使っての授業は、健翔さんにお願いする。
 まずは、全員で輪になって、「。」までを区切りにセリフとト書きを読んでいく。おお、こういう話かというのがよくわかる。
 続いて、セリフだけ読んでいく。やりたい人に立候補してもらって、全編を。
 この最初のチームは、さすがやりたい人だけあって、なんだかすごかった。生き生きとした芝居としてのおもしろさがいっぱいだった。
 その後、テキストの後半部分を使って、とにかく全員が読むことに。役を順に提示していってやりたい人の名前を黒板に書いていく。呼んでほしい名前で。全員分。
 一人1人名前を書くというのは、大変なことだけど、間違いがない、その後、劇中で呼ぶ名前の確認にもなる。
 割り切れなくて、人数的にこぼれてしまった男子は、携帯電話のベルの役を全部の回で。僕はこそっとそばに寄っていって、「もっといろいろな音やってごらん」とか「みんなが見えるような位置に立ったほうがいいよ」などとアドバイス。
 短い場面だったけど、子供達は生き生きと演じてくれていた。何より、やりたい人!?と手を挙げてもらったとき、どんどん「はーい!」と手が上がっていったのが素晴らしい。みんな楽しんでくれてるんだねえ。
 一人余ってしまった女子と携帯電話の彼を中心にラストにもう一回、全編を詠んでみる。初めよりも深まったおもしろさを子供達も感じただろうと思う。
 最後に、タイムマシンに乗ってる感覚というのを感じてもらうエチュード。ただの読み合わせじゃなくて、こういうことをやってくれるのが健翔さんのステキなところだ。
 タイムマシンにすごいスリルを期待していたのに、あれ、こんななの?というのを、セリフにも出てくるジェットコースターの場合との比較でやってみる。
 僕は、「じゃあ、行くぞ。せーの。、ゴー!」というおとうさんの役。ちょっと芝居をする。60人の子供達を相手の芝居。
 最後に青井さんから、「声を大きく出してとかはっきりしゃべってというようなことではなく、気持ちをはっきり、しっかり持てば声もしっかりしてきます」とお話。
 授業のあと、篠原さん、阿部先生と歩きながらお話、今日の感想、これからのことなどを簡単に。
 給食をいただいて、うちあわせ。感想を言い合う。これから、子供達が書いてくれたお話をもとに、僕と篠原さんは台本をつくり、大人達みんなで一本の芝居をつくりあげていく。
 久しぶりに大勢が集まって、あらためてなんていいチームなんだろうと思った。誰も仕切らず、ずるをせず、きちんと子供達に向き合っている。
 今日も、いろいろなアイデアが生まれた。まだまだどうなるかわからない、今年の6年生の卒業公演。どんな芝居になるか楽しみだ。

 夜は、「許しつづける女たち」の稽古。初めて行く、久品仏の稽古場。
 昨日の続きの3場。スミケンの登場シーンを中心に。いろいろやってもらう。エチュードを交えながら、同時にいくつものことをやってもらわなければいけない、この人物、この場面をていねいにつくっていく。
 帰りは、これからバイトに向かうアカネちゃんと日比谷線。夜のバイトの苦労とおもしろさについて、いろいろ聞き話す。


2006年09月19日(火) 「許しつづける女たち」稽古

 初めての稽古場、世田谷の鎌田で。
 二子玉川からバスで行こうかと思ったのだけれど、出来心で歩いてしまおうと思う。徒歩20分。道はずいぶん簡単だ。ただ、川沿いの道はどんどん暗くなって、最後の最後でちょっと道に迷う。
 一週間ぶりの稽古。
 読み合わせをしただけで自主稽古をお願いしていた3場(途中まで)を作っていく。
 札幌で芝居をしてきたばかりか、また違った目でみんなの芝居をみることができているような気がする。
 最初の立ち稽古なので、即興の要素もいろいろ取り入れて、セリフをどうしゃべるかではない、どんなふうにそこにいるかということを、確認していってもらう。
 セリフを相手に渡してはじめて、やりとりが成立する。自分の気持ちだけを表現していっても、芝居は積み上がっていかない。
 はじめやや調子が悪かったマチャがどんどんおもしろくなった。有賀くんもいいかんじ。その後登場した、美香ちゃんがマチャに負けていたのが、だんだんそこにいられるようになり、最後のスミケンとツナコ(あっくんの代役)登場では、また違った相手とのやりとりの違い方をかんじていってもらう。
 おもしろい稽古だった。
 はじめの予定では、3場をやったあと、1場から通したいなと思っていたのだけれど、途中で2場をやりますと宣言。それも、結局時間切れで今日は3場のみになってしまった。出番がなくなってしまったみんな、ごめんなさい。
 帰りはバスで二子玉まで、竜太郎さんと二人、芝居の話をしながら。
 すわりっぱなしの田園都市線の中で、明日の富士見ヶ丘小学校の授業の準備。子供たちが書いてくれたお話をもう一度全部読み直してみる。


2006年09月18日(月) レトロノート「ラン・エンド・ラン」

 札幌に来るといつも寄っている地下鉄円山公園の駅の上にある珈琲やさん「BOYS BE」に行くが、月曜は定休日でやってない。しかたなく、珈琲は諦めて、駅近くのパンやさん「円山ベーカリー」へ。ここでパンを買って帰るのも恒例になっている。イートインコーナーでパンを食べて、珈琲を飲む。ほっとする時間。
 一昨年の9月レインボーマーチで来たとき、僕は「二人でお茶を TEA FOR TWO」の取材のため、このあたりをずいぶん歩いた。
 劇中では語られないが、舞台になるホテルは、地下鉄の西18丁目と円山公園の間あたりにあるイメージだ。実際、6年前、僕が札幌の劇団に客演していて、稽古の間中、ずっとお世話になったホテルもそのあたりにある。
 お礼参りのきもちで今日もまた少し歩く。と、小雨が降りだしたので、地下鉄に乗り、琴似経由で千歳へむかった。
 森川くんとなんとか落ち合うことに成功して、ぎりぎりの時間で搭乗手続きを終える。機内では、森川くんと芝居の話をあれこれ。
 二人での稽古は実質4日しかできなかった今回の舞台。セリフはきっと「一時保存のメモリー」のようなところでおぼえてるから、きっとすぐ忘れるねといっこうさんと話したのだけれど、それでもこんなに出てくるということは、初演のときにしっかりハードディスクに書き込んであったのかもしれない。レパートリーってこういうことなんだろうか。最初の読み合わせでは「こんなにしゃべるんだ・・・」と途方にくれたのだけれど、芝居をしていると、何でもなく場面が積み重なっていく。
 いずれにしろ、信頼している森川くんと2人の芝居だからできたことだと思う。僕は芝居することだけに専念できた。舞台上でしか出会わないというのも、相手によっては心配でしかたがなかったかもしれないけど、今回は一度もそんな気持ちにならなかった。
 照明と音響を急遽お願いしたいっこうさんと本田さんにも感謝だ。よく引き受けてくれたと思う。ありがとうございました。
 そして、札幌のみなさん。特にトモコちゃん。何度お礼を言っても足りない気がしている。お疲れさまでした。
 パレードという大仕事と一緒に、また全然違う大仕事の芝居を上演するという企画をたててくれたこと、そして、忙しいなか、全部の公演につきあい、舞台に登場までしてくれたこと。ほんとうに感謝だ。
 ほんとにあっという間に羽田に着いてしまう。森川くんと浜松町の駅で別れて、札幌公演も一区切りな気分。

 喫茶店で少し原稿を書く時間をとって、夜はサンモールスタジオへ。小林くんが出演しているレトロノート公演「ラン・エンド・ラン」を見る。
 高校の野球部の仲間が、卒業後10年経って、当時の監督の3度目の結婚パーティの準備をしている。花嫁は、仲間の一人、今はプロ野球で活躍している彼が当時大好きだった女の子。仲間達は、彼を傷つけまいと、必死になって、その事実を隠そうする。あたたかなコメディ。
 役者さんたちはとても達者で、小林くんも野球部の元マネージャーという役をチャーミングに演じていた。
 途中、なんでそんなに隠さないといけないの?と思いながらも、やりとりのおかしさでずっと見続けていくことができた。はちゃめちゃなキャラクターの今は青果店の主人をしている彼が、とても達者でおもしろかった。
 終演後、同じ回を見ていた三枝嬢と一緒に小林くんに挨拶。座長の中村公平さんにもご挨拶。富士見ヶ丘中学校の発表会で会って以来だ。お世話になりました。
 帰り、三枝嬢と地下鉄で、彼女が11月に上演する舞台についての話を聞く。どんなものになるか、たのしみだ。


2006年09月17日(日) 第10回レインボーマーチ札幌 「二人でお茶を」千穐楽

 第10回レインボーマーチ当日。
 あまり早く行っても、メガネなしでよく見えず、相手が誰だかわからず失礼をいっぱいしてしまいそうだったので、ホテルと喫茶店で原稿を書き、出発時間のちょっと前に集合場所に到着。いっこうさん、パチパチと合流。札幌のみなさん、全国から集まった、なつかしいみなさんにご挨拶。至近距離で。
 札幌のパレードは規制の厳しい東京と違って、すべてがおおらかだ。フロートの高さや警察との関係も。もちろん道路の幅のひろびろとしたかんじは言うまでもない。
 今回の札幌のレインボーフラッグは、いつものレインボーカラーに白を加えた7色だ。この場にいない人、いろんな理由で来れない人、すでにこの世にいない人、彼らとも一緒に歩くという意味を込めたのだそうだ。そんな話をひさしぶりに会ったマーガレットさんと立ち話。
 出発! ゆるゆると実行委員会フロートの後あたりを歩く。時々、沿道にまわって、外からも見てみる。
 パレードを歩くのは一昨年の札幌以来、二年ぶりだ。出発のカウントダウンで涙ぐんでしまう。歩きながらも泣けてきてしまって困った。
 みんな思い思いのかっこうで歩いている。バッチリ決めている人もいるけれど、微妙にゆるいテイストがここでもとてもステキだ。
 僕のすぐ前にいたのはピンクのファーでつくったビキニをはいたゴーゴーボーイの2人。かなりいい男な彼らが、シンプルに手を繋いで歩いている後ろ姿が、とてもかっこいい。
 のどかな雰囲気のパレードだけれど、実行委員は大忙し。トモコちゃんがカメラを片手に撮影しているのに出くわした。ゲイが撮影した記録をちゃんと残しておこうということで、急遽かりだされたそうだ。
 「二人でお茶を TEA FOR TWO」やその他のイベントの準備でへとへとだろうに、ひとしきり撮影すると次のポイントまで駆けだしていった。
 隊列の整理をしているケンタさんともおしゃべり。実行委員会フロートの選曲について。あまりにバラバラでイカしていたので、「誰が選んでるの?」と聞いてみた。ケンタさんはフロートを指さすと、「あそこにいる女装たち」と答えて、また歩いていった。
 何日も寝てないというケンタさんは、とっても白っぽい顔色で、なんだかやるだけのことをやりきった人の美しいオーラが出ているようだった。他の実行委員のみんなからも、そんなすがすがしさ、というか美しさをかんじた。
 駅前通りで空に風船を飛ばす恒例のイベント。白を加えた7色の風船が空に飛んでいった。今年もまた感動的な瞬間だった。
 帰着後の集会では、今年も札幌市の上田市長が挨拶をした。人権の大切さについて話されたあと、ようこそ札幌へと今年も言ってもらう。会場は大きな拍手に包まれた。
 その後、大阪府議でありカミングアウトしているレズビアンの尾辻かな子さんの挨拶も。パレードとの関わりについての熱い想いをうかがう。こちらも、とっても感動的だった。
 微妙に予定がおして劇場入りの時間が迫ってきたので、親の会の方の挨拶までを聞いてお先に失礼することにした。
 親の会というのはゲイやレズビアンやその他のセクシュアルマイノリティの子を持つ親の集まりだ。今年は、集合場所のブースでおにぎりをにぎって売っていた。
 元気な母さんが一生懸命語っていた。「親はどうせ子供より先に死ぬんだから、大体の場合。好きなように生きなくては。思ったことは、どんどん伝えなくては」と。「おにぎりは午前中で完売したので、来年はこの3倍にぎります」と。
 その後、札幌に来たら必ず食べたい大通り公園のとうきびを買ってかじりながら劇場へ向かう。このとうもろこしはほんとうにおいしいと思う。大好きな札幌B級グルメだ。
 劇場入りして、トモコちゃんとおしゃべり。パレードの感想を。
 さっき親の会を代表してしゃべっていたのは、僕の知っている友人のお母さんだったそうだ。この間彼の消息を聞かれたときには言えなかったのだけれどと、前置きして、トモコちゃんは、その彼がこの間、自ら命を断って亡くなったのだと話してくれた。
 あの母さんは、自分の息子が亡くなったのに、親の会の活動をがんばっているのだそうだ。みんな自分の子供だと思うと。みんなも、みんなの母さんのように慕っているのだそうだ。
 芝居の3場に僕が母親に電話でカミングアウトするシーンがある。東京でも盛り上がった場面だけれど、札幌ではよりいっそう楽しんでもらっている気がする。
 それはきっと、僕がしゃべっている相手の母親の人物像が、観客の頭の中にしっかりイメージされるからだと思う。まさに、親の会の母さんのような人なんだなあと、思っていたところだったので、余計に感慨深い。
 最後の舞台を、今はいない彼と、彼のお母さんのために演じようと思った。
 開場前に、1場と2場を森川くんとさらって、準備をすませて、開演。
 途中、2場で持って出るジンギスカン一式が入ってる紙袋を袖で探したり(このジンギスカンの鍋とコンロも札幌で用意してもらった)、4場でややセリフが前後したけれど、いいかんじで6場の最後のセリフまでたどりつく。ドリス・デイが歌う「TEA FOR TWO」の歌詞「We are the Family〜」というところ(たぶん)で最後の暗転。札幌での「二人でお茶を TEA FOR TWO」の幕は下りた。
 終演後の挨拶でトモコちゃんが声をつまらせる。森川くんも。僕は「やだ、僕だけ泣かないと悪い人みたいじゃない!」とつっこんでいた。
 最後の挨拶は長くなるかと思ったのだけれど、思うことがいっぱいで、いつもより簡単になってしまった。ほんとうにありがとうという気持ちでいっぱいだ。
 ロビーで、見に来てくれた尾辻さんにご挨拶。僕が非戦を選ぶ演劇人の会で活動していることも知っていてくれた。来月の大阪のパレードの成功をお祈りします!
 終演後の片づけは、舞台は劇場のみなさんにそのままでいいと言っていただいたので、楽屋の片づけのみ、来るとき持ってきた分も含めて、宅急便で送る手配をばたばたとする。
 僕らが楽屋を片付けている間に、札幌で用意してもらった舞台上の家具が車に積まれていく。カネゴンのところから来たベッドは、ビアンのカップルのところに行くことになったそうだ。
 劇場の前田さんにご挨拶。ほんとにいい劇場だった。気持ちよく使わせてもらったお礼を言う。
 トモコちゃんたちスタッフと別れて、東京からの4人は、打ち上げをしようということになった。
 たどりついたのは狸小路の炭火焼き居酒屋。昨日は、フロアの中央で焼いてるところだったけど、今日はそれぞれのテーブルに備長炭がやってくる。決して若くはないギャルソン風のお兄さんたちに焼き方のコツを教えてもらいながら、今日もまた海鮮ものをおいしくいただく。おいしいお酒も。
 こんなに気持ちよく、幸せな気持ちで乾杯できているのが夢のようだ。炭の遠赤外線でほかほかと暖まりながら、気持ちもとても暖かくなった。
 閉店時間まで飲み、しゃべり、解散。
 僕は、後夜祭に出かける。今夜もまた札幌のドラァグ勢を堪能する。
 十年ぶりだというショーコとヤッちゃんのショー。曲は「マンマ・ミーア」。映画「プリシラ」の最後に登場する曲だ。エアーズロックまでの旅をして戻ってきたドラァグさんが、この曲でショーをして、最後に「やっぱり家は最高!」と言う。目の前にいるショーコと映画がだぶって見えた。
 明日の飛行機は千歳発13時、午前中は少しあちこち歩こうと思う。


せきねしんいち |MAILHomePage

My追加