せきねしんいちの観劇&稽古日記
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今日も一日休んでしまう。熱はだんだん下がってきた。 夕べ、何度も目を覚ましてはまた眠り、その都度見る夢がみんな、富士見丘小学校のことばかりだった。何度目かに起きた朝方、そのことに気がつき、ちょっとあきれる。 4月に客演する「危婦人」のスギさんから送っていただいたDVDを見る。オリジナルの歌「落花生チャチャ」のプロモビデオだ。歌っているのは、先日のサンモールスタジオの新年会で仲良くなったザンヨウコさん(このビデオの中では大部屋女優、浜子の設定か?)。バックダンサーとしてお友達のキキコロモちゃんも顔を黒くして(!)踊っている。 「落花生チャチャ」、とってもすばらしい。名曲だと思う。ゆるさといい、秘めた(?)女心のせつなさといい、お見事だ! 「オレイン ポリフェノール 渋皮 たんぱく質」(落花生だからね)という男声バックコーラスもツボ。そして何より、ザンヨウコさんの歌唱力と目ぢからに感動する。思わず三回続けて見てしまった。これはジオマンのマルゴリータ・なすにすぐ見せないと。4月の客演がぐーんと楽しみになった。 客演の日程は4月11日(火)、12日(水)の二日間。会場は北沢タウンホール。くわしくはまた改めてお知らせいたします。 夜、富士見丘小学校のDVDの校正をする。篠原さんとメールと電話でやりとり。 この仕事ももうじき終わり。 三年間の演劇プロジェクトも一区切り、四年目はどうなるのか? そして、それ以降は? あれこれ考えながら、それでもやっぱり眠ってしまった一日。
2007年01月23日(火) |
「光速マシーンに乗って」千穐楽 |
昨日の昼間寝てすごしてしまったので、夜中は起きてしまい、そのまま6時半に家を出る。熱はずいぶん下がった。 篠原さん、里紗ちゃん、にいやんと富士見ヶ丘駅で待ち合わせ。 照明のあやさんと合流し、会場になるホールの仕込みを開始。 小学校から、平田さんが、小道具を車でピストン輸送してくれる。 大黒幕をつり、星球を飾って、今日の星空を作る。 園のみなさんが客席を準備してくださって、昼過ぎには準備は終了。 1時に給食を食べてやってくる子どもたちを待つ。 外に面した窓から、みんながやってくるのが見えた。各自、衣装や小道具を持参している。杉浦博士役のマツザワくんは、もう白衣を着て歩いてきた。 14時開演予定なので、場当たりも全部はできない。 一番位置の変更が大きい、ダンスの場面と、全員で歌う場面をつくっていく。 体育館よりふた周り小さい今日の会場は、実はこの芝居にはちょうどいいサイズかもしれない。みんなで練習した歌も、体育館よりずっときれいに響いた。 声もよく聞こえる。ただ、響きすぎてしまうので、そのことに安心してかえって聞こえなくなるのではという心配も。 開演前に、初めての会場で心配がいっぱいあるかと思いますが、思い切って、今日の舞台を楽しんでください。今日のお客さまはお年寄りなので、耳がよく聞こえない方や、目がよく見えない方がいるかもしれません。そのためにも、これまでよりもていねいに「手渡すこと」を心がけてくださいと話した。 開演前の短い時間に、警備員1の役のシマダさんに「笛思いきり吹いてもいいですか?」と質問される。彼女は劇中、他の警備員を集めるためにホイッスルを吹く。お年寄りをびっくりさせないかと心配したのだと思う。「大丈夫。いつもどおりに吹いていいよ」とこたえた。うとうとしてる人が目を覚ますくらいにねと。 14時開演予定の舞台は、お年寄りは会場にやってくるのに時間がかかるということで、15分押しになった。 会場の浴風園は広い施設だ。園内にいくつもの建物が並び、かつての武蔵野はこんなだったんだろうという木立も残っている。 古い趣のある建物は映画やテレビの撮影によく使われるそうだ。 160席用意した客席が三分の二以上(もっとか?)きれいに埋まって、開演。 テンポの速い、台詞の多い、そして、場面の展開も多い、この芝居を、お年寄りのみなさんはとても熱心に見ていてくださった。時に笑い声を上げながら、暖かく。 子どもたちは、準備がばたばたしたせいか、ところどころでトラブルに遭遇しながら、それでも最後まできっちり全員が演じきった。 体育館であったひな壇が今回はないので、その場面の位置は大幅に変更になっている。ダンスや歌の場面、それに犬たちのすみかの場面は、場当たりをしたのだけれど、細かい部分は、説明だけで時間がなくなった。 大切な思い出の中の、歩ちゃんの弟の貴史くんが風邪で寝ている場面。貴史役のミヤザキくんとお父さん役のムラシマくんは、その後、舞台の奥で歩とチョコの場面がある間、体育館ではひな壇の中段で待っていた。今日は、階段がないので、それまでのシーンで貴史くんが寝ていたのは舞台の上、それが奥で歩とチョコの芝居がはじまったら、二人でそっと舞台から降りて、フロアでの芝居に変更してくれた。ちゃんと考えてくれたんだねえとうれしくなる。なかなかできることじゃないと思う。自分のことだけじゃなくて、芝居全体のことを考えられているからこそだ。後で聞いたら、篠原さんもこの場面で感動したと言っていた。 あたたかい拍手をいただいて、お礼としてお菓子のプレゼントを一人一人いただいて、無事終了。僕は、控え室の前で子どもたちに拍手を送った。お疲れさま。 子どもたちは、その後、学校に戻って下校。今週の金曜日に用意していただいた振り返りの時間で、一年間の演劇授業はすべて終了だ。 スタッフの僕らは、すぐにバラしを始める。さくさくと星球を下ろし、照明のふりを元に戻して、小道具の跳び箱やウレタンブロックを平田さんの車でまたピストン輸送。小一時間で終了。 のりうちバラシのすごいいきおいの公演だったなあと振り返る。子どもたちはよくこのいきおいについてきたなあと改めて感動。 友人の太田さんが、今日の舞台を見に来てくれていた。感想を聞いたところ、子どもたちの集中力とまとまりのよさに「びっくりした」とのこと。たしかにそうかもしれない。こんなことができる小学六年生はそういるもんじゃないと思う。 外で平田さんの車を待っている間、園のマジック同好会の方に声をかけられる。今日の舞台は見られなかったけど、いつかまた子どもたちを一緒に何かやれないかとのこと。うん、子どもたちが演劇を見せて、お年寄りがマジックやその他の出し物を見せるというのは、なかなか楽しい企画かもしれない。 帰り、篠原さん、あやさん、里紗ちゃん、にいやんは、お蕎麦屋さんで食事がてら軽く打ち上げ。僕は、また熱が上がってきたようなので、お先に失礼する。 電車の中でダウンして、家に帰ったら、熱は38度5分。またか・・・。とにかく薬を飲んで寝る。猫と一緒に。
風邪をひいた。富士見丘の発表が終わって、気がゆるんだのかもしれない。熱を出して、一日寝てしまう。 この間の知恵熱とはちがう、のどが強烈に痛くなるいやな風邪っぽい。鼻水が大量に出て、ティッシュを一箱使い切ってしまう。 目がかゆくて、鼻水が出るというのは花粉症か?という疑いがわく。花粉症の薬を鼻に塗ったらたしかに少しラクになった。 午後、テレビ東京でやっていた映画「マグノリアの花たち」を見てしまう。何度も見ている大好きな映画だけれど、吹き替えでは初めて。カットもそんなになく、やっぱりいいなとあらためて思う。 オリジナルの舞台は美容室を舞台にしたワンセットのドラマだけれど、映画は小さな町の日常をたんねんに写し取ったもの。ワイルダーの「我が町」のようだなあと思う。ほろほろと泣いて、少し目のかゆみと鼻水がラクになったような気分。 夜になって、ふと花粉のおおもとが部屋の中にあることに気がつく。 このあいだ、サンモールスタジオの新年会でいただいた最優秀女優賞と一緒にもらったバラの花束だ。大輪の真っ赤なバラが十本、それに百合を大きな花瓶に活けて部屋に置いてあるのが、十日経って今は「満開」だ。そうだ、これを片づけようと思い、花びらをむしって机の上にならべる。花粉がいっぱいついて花芯は茎と一緒にゴミ袋に入れ、花瓶には、まだ咲きそうな百合のつぼみだけを残した。気のせいか、ずいぶんラクになった目と鼻にほっとして、また一眠りする。 明日は、6年生にとって、最後の発表。学校の近くの老人施設「浴風園」での発表だ。 朝から準備をして、ほとんどぶっつけの本番だ。どうなるだろう? 僕はとにかく明日にそなえて今日は休む。
2007年01月21日(日) |
鹿殺し「僕を愛ちて」 |
3月の客演の舞台の稽古の予定が変更になり、制作会議ということになり、キャストのみなさん、プロデューサーのみなさんと集まった。 3月の舞台はとりあえず延期ということになり、日程を含めて仕切り直しということに。 夏以降の予定を伝え、会場の候補などについて話し合い、その後はあれこれとおしゃべりをして、解散。 稽古に入った舞台が延期になるというのは、初めての経験だ。 より練り直しての舞台になると思うので、くわしい情報はあらためてお知らせしたいと思います。 夜は、鹿殺しの舞台「僕を愛ちて」を観に池袋のシアターグリーンへ。樺澤氏と。 中劇場には初めて入ったのだけれど、ちょうどいい大きさでとてもいい雰囲気だ。 鹿殺しのみなさんとは去年の絶対王様「宇宙人の新撰組」で共演して以来だ。 公演の日程が合わず、本公演を観るのは今回が初めて。 おもしろかった。 ラジカルな状況劇場というか(古いか?)、とにかく熱い舞台でとても気持ちがよかった。 全員がほぼ出ずっぱりで、何役もこなし、早変わりやら、舞台裏のサポートやら、みんなで作る上げている感がこの熱さのもとなのだろうと思う。 ちょっと不思議だったのは、舞台の熱さに対する、客席の温度だ。もっとラクに見ててもいいのに、なんだかみんなかしこまっているような、固い雰囲気だった・・・。初めてのお客さんが多いのかしら? もっともっとみんなでわいわい盛り上がれる舞台(客席を含めて)になったらいいと思う。「がんばれ、鹿殺し!」と心の中でエールを送る。 終演後、楽屋で(というか舞台裏になっている階段踊り場で)座長のチョビさん、はじめ、みなさんにご挨拶。 7月の「サロン」に客演してもらうチョビさんにあれこれと質問をして、演じてもらうことになる直(なお)の役のイメージをふくらませる。 イメージ通りのキャラクターでより楽しみになった。 この舞台を観るのが、「サロン」の台本を書き始める前の最後の準備だったので、これからばりばり書き進めていこうと思う。
夕べは目がさえてなかなか眠れず、寝過ぎたかなというくらいぐっすり眠って、昼過ぎに起きる。 夕方、友人の太田さんと会って、おしゃべり。 芝居の話や、近況などを聞くつもりだったのだけれど、終わったばかりの富士見丘小の発表のことをるんるんしゃべってしまう。 去年もこの調子で、鹿殺しの面々に語ってしまったなあと思い出す。 同年代の演劇人と話すのはとても楽しい。 23日の浴風園での発表を見てもらえるかもしれないと聞く。 3日、間が空いての子どもたちはどんな気持ちで最後の舞台に向きあってくれるだろう。 出来のよしあしよりも、彼ら一人一人にどんな思いがプラスされるか、それが気がかり&楽しみだ。
2007年01月19日(金) |
富士見丘小学校演劇授業 「光速マシーンに乗って」本番 |
今日もダンスの朝練をするということで、僕たちも8時に体育館に集合。 去年は、蓄光テープをひな段に貼ったり、気持ちもどこかあわただしかったのだけれど、今年はすんと落ち着いた気持ち。それがとても不思議だ。 宮崎さんの指導で全員でダンス。全員参加の練習というわけではないのだけれど、ほぼ全員が集まって、元気に踊った。朝一番のウォーミングアップだ。 その後、六年生は校庭で卒業アルバムのための集合写真の撮影。僕たちは体育館で最後のアドバイス、演出の変更点をどう伝えようかと打ち合わせ。 最後の場面にひな壇に全員集合するところを、立つのではなく座ってもらうことに変更する。その方が暗転中に星空がよく見えるから。 その後、一回ダンスだけをさらって、本番前に一度通してみる。細かく小返しをするより、通してみることで全体の中に自分がどういるのかを確認してほしい。 昨日の夕方から体育館に来た大型の石油ストーブはかなり強力なのだけれど、今朝になってから点けたのでなかなか暖まらない。外は強い風が吹いていて、校庭側のドアのすきまから冷たい風がどんどん入ってくる。大きな音のするストーブを今はつけておこうということで点けっぱなしにしたので、台詞はかなり聞こえにくい。 そんな中、子どもたちはがんばった。ちょっと元気がないかな?という部分もあったけれど、本番のできがいいかんじにイメージできる、そんな最終リハーサルだった。 開演前に横内さんが来てくれる。差し入れをたくさんいただく。感謝だ。時間をやりくりして来てくれたというそのことが、とてもうれしい。 教室には戻らないで、そのまま下級生を迎えて、本番開始。下級生、特に低学年の子どもたちがどんなふうにこの芝居を観てくれるかがとても心配であり、また楽しみ。 上演中、小さな子供たちは、騒ぐこともなく、しっかり見つづけてくれていた。登場人物のおかしな一言一言にちゃんと反応して笑ったり、空を指さして見上げれば、一緒になって上を向いたり。 この芝居の中盤は、かなり重厚な台詞の芝居になっている。未来人が過去を悔いて話す場面、そして、未来に来てしまった博士一行が現代に戻るには、大切な思い出を置いていってくれなくてはいけないと話す場面、そして、その思い出はエネルギーとして使ってしまうと、全員の記憶から消されてしまうと話す場面。 終了後のふりかえりで青井さんが話したように、この場面はこの芝居の要になる部分だ。そして、この場面が芝居全体の中で一番だれやすい時間、開演して45分過ぎたあたりにある。 出演していた子どもたちは、下級生を前にして、やや緊張気味だったせいもあり、このあたりの台詞のとおりがちょっと悪くなった。それでも、低学年の子どもたちはさわぐことなく見続けてくれて、最後の星空では歓声が、全員の歌で暗転したときには大きな拍手がおこった。 発表のあと、視聴覚室でふりかえり。今の発表の感想を子どもたちから言ってもらい、僕たちからも思ったことを言わせてもらう。 給食をミーティングルームでいただいて、その後、保健室に移動して一休み。こんなに長い時間、保健室にいるのは初めて。青井さん、健翔さん、里紗ちゃん、扉座のにいやん(新原くん)とおいてある本を見てみたり、くつろぐ。大人がこんなにいる小学校の保健室ってなんだか舞台みたいだと話す。保健室ってたしかにドラマチックだよねと健翔さん。その後、場所もおもしろいけど、いる今日の面々もかなり特別だねと言い合った。 五時間目は、他の学年は研究授業。六年生は、一度視聴覚室に集まって、午後の保護者と来賓の方々に見てもらう舞台の準備。 細かい修正はなるたけなしにしたかったのだけれど、最後の暗転の後のランプと星球の付き方のタイミングを直す。ランプを持っている未来人たいが役のコバヤシくんには、最後になって新たな段取りをおぼえてもらわないといけない。それに対する他のみんなのリアクションも変わるので、これもまた全員の仕事だ。 体育館に移動して、段取りの確認。いいかんじになった。 最後に、講師陣から一言ずつ。僕は、これから見てくれる大人は、午前中の子どもたちよりももしかするとあまり集中して見てくれないかもしれません(去年はややその傾向があった)。だから、余計に芝居を「手渡す」ことを意識してください。みんなに書いてもらった作文をもとに僕と篠原さんはこの「光速マシーンに乗って」を書き上げました。どの台詞もとても大事です。全部の台詞がきちんと聞こえて、お客さんに届いてほしいと思います。「手渡す」ことを忘れないでくださいね。 そう言いながら、篠原さんに見えない「モノ」を手渡した。「こんなふうに」と。篠原さんは、その何かをひな壇に並んだ子どもたちの一人に渡した。健翔さんが、みんなで回してごらんと言ってくれた。子どもたちは、その何か、たぶん「思い」を全員で順に手渡してリレーしていった。最後にまた篠原さんが受け取って、体育館の広い空間に向かって広げた。 何の打ち合わせもしていなかったのだけれど、この「手渡し」の確認はとてもいい時間だったと思う。 この間、全員で数を数えたのと同じくらいの集中をみんなが共有できたんじゃないかと思う。 その後、開場。子どもたちは、舞台にいたまま、お客さんを迎えた。僕はこのゆるいかんじがとても好きだ。袖で引っ込んでドキドキするよりずっといい。今回は単純に時間がなかったせいだけど、結果として子どもたちは、心の準備がずいぶんできたんじゃないかと思う。 劇作家協会からは永井愛さん、それに斎藤憐さんが来てくださった。 予定した席はみるみるいっぱいになって、僕は、こっちが空いてますよと、先生方と一緒に客席の誘導をしていた。 そして、開演。 大人達は、びっくりするくらい集中して舞台を見てくれた。子どもたちもそれに応えて、ていねいに芝居を積み重ねていってくれた。見ながら、さっきみんなで話した「手渡す」ということが、目の当たり現実になっているのを見て、涙が出てきた。 一番気がかりだった未来人の場面、リーダーのむつき役のナナコちゃんが、この芝居の要、ポイントになる台詞をこれまでにない力強さで語ってくれた。感動する。 今は遺跡になってしまって動かない光速マシーンを動かすには、思いの力の中でも一番強い、思い出の力が必要だ。過去に戻るには、その中でも一番大切な思い出を使わなくてはいけない。ただし、エネルギーとして使った思い出は、全員の記憶から消去されてしまう。 このロジックは、実は、ナナコちゃんが書いてくれた作文から取り入れたものだ(「むつき」という役名も)。その台詞を語る、この「むつき」という役を、ナナコちゃんはオーディションのとき、自分でやりたいと言ってくれた。今日のむつき役はとても素晴らしかった。 「全部の台詞が聞こえたい」とお願いしたとおり、この回の台詞はどれもみんな聞こえてきた。何度も見ている僕だからかもしれないけれど、これまでにない手応えをもった言葉になって体育館にひびいていたことは間違いない。意識するってなんてすごいんだろうと思った。そして、そのことをやってしまえることのすごさ、今この場所、時間にいることのかけがえのなさを思った。 最後の暗転。たいが役のコバヤシくんが掲げたランプ(思いの力でともった)をみんな見ているなか、星空が浮かび上がって、フロアの博士一行が現代に戻ってくる。 ランプにこもった思いが、きれいに星空につながり、広がった。 大切な思い出として、自分と歩ちゃんの思い出を使ってと申し出た犬のチョコ。現代に戻ったチョコは、一行から離れてぽつんと座っている。みんなの記憶から、仲良しだった歩ちゃんの記憶からもいなくなってしまったからだ。 チョコの声のルイちゃんと操りのイイダさんに、僕は「博士たちが歩き出したあと、ちょっとだけ待ってから後を追いかけて」とお願いした。その方が、チョコが忘れられてしまったということがわかるからと。 この微妙な段取りを二人はみごとに演じてくれた。そして、歩に追いつくと「キャン」と鳴く。振り返った歩は、「かわいい犬。お前、捨て犬? うち、今、お母さんがいないから飼えないんだ。ごめんね」と歩き出す。また「キャウーン」と鳴くチョコ。歩は「おいで、名前なんていうの? チビ? ポチ? 茶色いからココアかな? チョコ?」「キャン!」「チョコ! はじめまして、私は歩。一緒に行こう!」「キャン!」 この場面は、ラストをどうしようかと考えているときに長崎先生から提案してもらったアイデアをもとにしている。記憶から消えたまんまじゃ哀しいし、こういう再会って「韓流ドラマ」によくあると。 そうしてできあがった、この芝居のラストは、名場面だと思う。チョコ役の二人も、歩役のスギヤマさんもとてもすばらしかった。 そして、最後に全員で歌う歌「毎日が大切な思い出」。劇中、どの思い出が一番大切かを話しあった子どもたちは、思い出に一番も二番もない。毎日は思い出のかたまりだと気がつき、「毎日が大切な思い出」という歌を歌う。この考え(思想)も子どもたちの作文からもらったものだ。 僕たちは、台本を書く中で、「あなたの一番大切な思い出を教えてください」と作文の宿題をお願いした。届いた作文には、すばらしい思い出がたくさんあって、その中のいくつかをそのまま、また何人かの思い出をつなぎあわせて、芝居にとりいれた。そして、何人もが書いてくれた「思い出に一番も二番もない」「毎日が大切な思い出だと思う」というのもそのまま使わせてもらった。歌の歌詞も子どもたちにこの場面をもとに書いてもらったモノに手をくわえてできあがっている。 大人が思いついて、「こういうことだから歌ってね」と渡したものだったら、この歌はこんなに胸に迫るものにならなかったと思う。その微妙さ、ほんの小さなことだけれど、この違いを丹念につむいでいくことが、僕たち、大人の演劇人がやらなければいけないことだと思う。 歌い終わって、星空を残しての暗転。大きな拍手をいただいた。 視聴覚室で振り返りをして子どもたちは下校。 講師陣も一言ずつ感想を言わせてもらった。子どもたちはみんなとてもいい顔をしていた。一人残らず。ちなみに今日は欠席の子は一人もいなかった。全員で、ほんとに全員で力を合わせて舞台をつくりあげた。 僕はこんなことを言わせてもらった。「お疲れさまでした。すばらしい舞台でした。台詞はみんな聞こえていましたし、ちゃんと届いていたと思います。みなさんの伝えようという思いが伝わってきた舞台でした。今、みんながとてもいい顔をしているのがほんとうにうれしいです。演劇というのは、一人ではできないことを大勢で力をあわせてつくりあげるものです。今日は、みなさん全員が一人一人がんばって、力を合わせて舞台をつくりあげました。出演者もスタッフも先生方も僕たち講師もそして観客のみなさんもみんなでつくりあげた今日の舞台です。今、みなさんが心の中で感じていることが、芝居をつくりあげることのよろこびです。僕たちは、その気持ちをずっと味わっていたくて、演劇を続けています。」 解散して、そのまま体育館のシンポジウムへ。青井さん、健翔さん、里紗ちゃん、にいやん、平田さんと一緒に、後方のマットや平均台に座ってお話をうかがう。 去年、総合的な学習の時間についてお話をしてくださった嶋野先生。僕は、先生方と一緒にそのお話をうかがって、演劇授業のあり方について考えるきっかけをたくさんいただいた。富士見丘小学校で通年で行っている、「対話・会話」の授業の栗岩先生。PTA会長の木村さん。そして、長崎先生と篠原さん。司会は、学校評議員でもあり文化庁国語調査官の鈴木仁也さん。 心に残る、そしてうれしい、また大切なお話をたくさんうかがった。中でも、木村さんが、2、3年生のご自身のお子さんたちに「六年生になったら演劇やりたい? ずいぶん大変みたいよ?」と聞いたところ、「やりたい」と言っていたというお話がとてもとてもうれしかった。 シンポジウムを聞いていた大勢の保護者の方、そして発表を見に来てくださったみなさんが、最後までずっと残ってくださっていたこともうれしく、ありがたかった。 終了後、大いそぎで撤収。その後、先生方と一緒に、打ち上げというか振りかえりの会におじゃまする。 去年の6年生の担任だった若林先生とあらためてご挨拶。 田中先生、阿部先生のお隣に座って、授業の裏話をいろいろうかがう。今日の昼休みに特別に練習をしていたということ。子どもたちの言葉もたくさんうかがった。こうして、ある意味、ざっくばらんにお話ができている今がとてもうれしい。 一人一人の挨拶の時間、僕も一言。「去年の発表会の後のこの席で、三年目は先生方に演劇授業を受け渡すのが目標だとお話ししたと思いますが、今年一年、そして今日の発表まで先生方の取り組みを拝見して、その目標は果たせたのではないかと思っています」とお話しする。 三年間の演劇授業は一年ごとがどうなるかわからない、その場その場で考え実行していかなくてはいけないことばかりだったけれども、講師陣と先生方は、協力して演劇授業を作り上げることができるようになったと思う。 三年もかかったというべきか、三年でできてしまったというべきかはわからない。 子ども達に、コミュニケーションの大切さを伝えるため、演劇のおもしろさを感じてもらうための演劇授業を通じて、僕たちは、まさに子どもたちに教えようとしていたそのことをそのまんま学んだのだと思う。そのことをあらためて思った。 帰りの電車では、篠原さんと今日のふりかえり。そして、来週の浴風園での発表の打ち合わせも。
2007年01月18日(木) |
富士見丘小学校演劇授業 リハーサル |
濃霧のせいで電車が今日もぐずぐず遅れ、早めに出たのにぎりぎりに到着する。 今日もダンスから始める。振り付けの日にお休みだった子も特訓して踊れるようになった。なかなか朝学校にこれない子が、8時からのダンスの練習には率先して参加してくれているそうだ。昨日は、3番乗り。今日は、一番乗りだったそう。こういう話を聞くと、ほんとにうれしい。演劇の授業があるから、今日はこれたという話を聞くのと同じように。 1回目の通しをまずはしてみる。問題点が見えてきた印象。でも、みんなそれぞれの役をのびのびと演じている。 途中休憩して、ダメだしをして、それを踏まえての二度目の通し。 僕は初めて、台本を追わずに、細かくチェックのメモを取ることもしないで、芝居だけを見せてもらう。 感動する。そして、最後にほろっとした。僕は泣き虫だけれど、これはいい芝居だと思う。今回の芝居「光速マシーンに乗って」は、まるで高校生が演じてもいいんじゃないかというくらい、大人な芝居だ。 でも、篠原さんと僕は、この台本を、子供たちの台本をもとにして書き上げた。 中に登場する、考え方も、全部、出発点は子供たちだ。 「毎日が大切な思い出」という歌、犬と女の子の友情、どれも切なくあたたかい。 65人全員が必ず何かの役を演じて、せりふをしゃべる。一人がかけてもこの芝居はできない、ほんとうに6年生全員でつくりあげている舞台。そのことに感動してしまう。 一人ひとりの工夫や、がんばりが、舞台の向こうに見えてくるからなおさらだ。 明日の本番でいったいどんな芝居になっていくか。午前中は1年生から5年生を前にしての発表、そして、午後は保護者のみなさんや来賓の方々、大人を前にしての発表。これまでずっといなかった観客を前にして、初めてできあがる舞台。 明日の朝は打ち合わせとウォームアップだけの予定だったのだけれど、60分で終わるならということで、本番前に一度通してみることになった。 どんどん慣れて、どんどんのびのびやれるようになっていってほしい。 あしたがほんとに楽しみだ。
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