2009年08月30日(日) |
曇り空。冷風がびゅうびゅうと吹き付けてくる。台風の影響なのだろうか。といっても私はニュースを見ていない。聞いた話によると、今日にでもこちらにやってくるそうだが。薔薇の樹が心配だ。支え木を添えてはあるが、それでも…。ここは高台、周りに高い建物はこのマンションしかなく、風はいいように吹き荒れる。せっかくついた蕾が壊れてしまわなければいいのだけれど。
白い羽根。 それを見た瞬間、空から白い羽根が舞い降りてきているのかと錯覚した。 何だろう、何だろう、ガラス越し、目を凝らせば。それは幾つものシャボン玉だった。早朝、港の埋立地で一体誰が何処でシャボン玉を。そう思いながらも、その美しい光景に目を奪われる。ふわふわと、ふわふわと舞う白い羽根。光を受けて発光するそのシャボン玉。 ひとしきりするとその羽根の群れは消えてなくなった。けれど、とても美しく、いとおしい光景がそこにあった。昨日の出来事。
仕事を一通り終えた後、掃除を始める。娘もいない土曜の午後、私は思い切って、娘のもう着れなくなった服を引っ張り出す。赤ん坊の頃の産着などはとってある。何故だろう、もし娘に赤ん坊ができたとき、それを差し出してあげたい気持ちがするからだ。娘が赤ん坊の頃、私はピンクより、薄い黄色や水色の服をよく着せていた。それならもし娘の赤ん坊が男でも女でも、どちらでも多分着ることができるだろう。そんな気持ちがしている。まぁそんなものは、勝手な親の感傷なのだろうが。 先日、ママ、もうこれ着れない、と言っていた娘のワンピースをまず引っ張り出す。私はとても気に入っている、ばばが買ってくれた黒と白のストライプのワンピースだ。顔立ちのはっきりした娘に、とてもよく似合っていた。残念だなと思いながら、かといってサイズ直しができる服でもなく。私は畳んでゴミ袋に入れる。さらに次、次、とやっていくと、捨てる服は結構な量出てきた。もしかしたら、もしかしたらととっておいたものばかり。でも、私と娘は二人家族で、いずれ引越しもする。そのときにやるより、今整理しておく方が楽なんだろう。そう思い、名残惜しい気持ちを引きずりながら、服を次々畳んではゴミ袋に入れる。 さて、次は私のもの。私のものは紙ごみがとてつもなく多い。たとえば一片の詩があったとして、それをプリントアウトする。そこに赤を入れる。テキストを直しプリントアウトしなおす。それをホチキスで止めて、さらに赤を入れる。そしてまたプリントアウト。読み直し、そこでも何かひっかかれば赤をいれ・・・と作業を繰り返す。ひとつの原稿ができあがるまでに、だから大量の紙が消費される。それがページ物などになれば、とてつもない量になる。 裏は娘の計算用紙、お絵かきに使ってもらっているため、それらは娘の机に溜まっていくわけだが。出てくる出てくる、娘が書き散らした紙が机の中、机の棚、何処からでも出てくる。途中苦笑しながら私は片付けてゆく。 結局ゴミ袋の半分くらいは軽く埋まってしまった。でもおかげで、娘の机はすっきりきれいになった。帰ってきたらびっくりするだろう。本棚もきれいになった。これで、彼女が使う予定になっているノートパソコンも、脇に置くことができるというもの。
そんなこんなであっという間に時間は流れ。かといって夜ご飯を一人で食べる気にもならず。思いついて、一錠薬を飲んで横になってみる。 眠れた。珍しい。あたりがもう夜の気配だったからなんだろうか、二時間ほどだけれども、眠ることができた。体の疲れがすっととれる。
そして夜、ひとしきり仕事をし終え、私は音楽をかける。このところ覚えたい歌があってそればかり流していたが、久しぶりにシークレット・ガーデンが聴きたくなった。何曲かかけたところで、今度はCoccoを流してみる。 先日会った昔からの友人と交わした言葉が蘇ってくる。心の中で反芻しながら吸う煙草の煙は、ゆらゆらと夜に溶けてゆく。
今朝、とある人と会話をしていた折、私がメモをとろうとしたら、その人が言った。メモをとらなければ忘れる程度のことなら、忘れたらいい、その程度のことだったんだ、と。私にはメモをとる癖がある。だからそのいつもの癖で、心にひっかかったその人の言葉を書き取ろうとしたのだ。そしてその言葉だった。 あぁ、確かにそうかもしれない。そうですね。本当に。 そう言って、私はメモをとるのをやめた。 けれど。やっぱりこれは癖なんだな。私はその人のその言葉をこそ今度は、記しておきたくなった。果たしてこれを私が読み返すことがあるのかないのか分からないけれども、でも私は一度記すことで、同時に心に刻んでいく癖があるから。 そしてふと思う。素敵な言葉をありがとう。あなたも、あなたも、あなたも。私はすぐに忘れてゆくのかもしれないけれども、でもまた何処かで何かの拍子に思い出すかもしれない。思い出してそのときに改めて、あなたの言葉を噛み締めるのかもしれない。だから、ありがとう。
こうして日記を書いている間にも、空はどんどん暗くなってきている。本当に台風が近づいてきているのだな。今日の午後帰ってくる予定の娘は大丈夫だろうか。いや、じじが一緒についてくるのだから大丈夫に決まっているのだけれども、それでも、ちょっと心配になる。
これを書き終えたら、私は小さな墓を一つ作ろう。せっかくうちに来てくれたのに、早々にあの世に逝ってしまった小さな金魚の為に、小さな墓を作ろう。薔薇の樹の脇がいいだろうか。それともアメリカン・ブルーの隣がいいだろうか。いや、やっぱり薔薇の樹の脇にしよう。そして徐々に徐々に溶けて肥やしになって、再び薔薇の花となって咲いたら、いい。 ごめんね、長く生かしてやれなくて。ありがとう、ほんのちょっとでも一緒にいてくれて。
開け放した窓から風がびゅうびゅうと吹き込む。脇に束ねたカーテンが、それでもわぁわぁと声を上げ踊っている。 私は。 ただそれをじっと、見つめている。 |
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