愛より淡く
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2007年01月02日(火) 昔の女

「この頃さあ、昔の女がとっかへひっかえ夢によく出て来るんだよ。しかも、目が覚めても、夢の内容までしっかり覚えていてさあ」

と、いうようなことを夫が、宙を見て、つぶやくように言った。


「それはきっと、いよいよ晩年に近づいてきた証拠と違うか?人生が終わりに近づいてくると、やたらと昔のことを振り返るようになるっていうし」

と、いうようなことを返した。


「なるほどね。若い頃なんて夢をほとんど見なかったし、見てもサッパリ覚えていなかったけど、この頃、なんだかやけに覚えているんだよねえ」


と、いうようなことを、また、しんみりとしながら、言った。


「みんなきれいな女だったなあ。あの頃は、はんぱじゃなくめんくいだったからさあ。きれいな女ばかり追いかけて・・・、」

と、ここで言葉がつまり、

ひと呼吸か、ふた呼吸おいて、

「で、結局は、いつも、捨てられてしまうんだ」


と、さみしげに言った。心なしか目が潤んでいるようだった。


でもまあ、捨てられたということは、それまで、曲がりなりにも相手にしてもらえたということやろうし、ええんちゃうん、わたしなんか、わたしなんか、相手にもされず、思いきり冷たくあしらわれただけやったで。

というようなことは言わずに黙っていた。その代わりに


「私も、昔のことよく思い出すよ、昔好きだった子のこととか、どうしてるのかな?元気かな?って思い出すよ。」

ぽつんと、ひとりごとをつぶやくように返した。


返事はなかった。


会話は、そこでぱったり、途絶えてしまった。



夫の夢の詳しい内容までは訊かなかった。


私は、作業を続けた。


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テキスト庵さん