Murmure du vent
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雑踏の中でどこからともなく、狂おしい香りが一瞬鼻腔に流れ込んだ。 「ソワールド・パリ」彼女の香りだ。 「キスをして欲しい所につけるものよ」そう言う彼女の瞳には微かに誘うような小さな炎が見えた。
昼間の白衣姿と月明かりに浮ぶ姿態とはどうしても結びつかなかった。 髪を切ってからはさらに年齢がわからなくなり、年上であることを忘れさせる人だった。
今この腕の中で目を閉じ少しだけ唇を緩め淫らな赤い炎のように身もだえする彼女。
どんなに燃え盛っていても芯は醒めて遠くにいる。 交情を深めてもなおこの手から零れていく水のような人だった。
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