世界人口60億人。その中の一人が私。
私がいなくなっても、統計上世界人口60億人。
増えて減って増えて減って。
私がいることに何の意味が?
「リセットボタン、押します」
―今まであなたが経験したすべてのこと、すべての記憶が消去されますが、よろしいでしょうか?―
「かまいません。私には思い残すことなんてないんです」
―そうですか。それは大変失礼いたしました。ではデータ初期化に数時間か借りますので、もうしばらくお待ちください―
仮死状態なのであろうか。今のこの私の状況は。
しかし、テレビなどで言っていた三途の川や一面の花畑は一切見当たらない。
そこには、パソコン(らしきもの)がずらっと並んだ部屋で、一台一台には清潔そうな女性が器用にパソコンを打ち込んでいる。
さながら、CMで見た金融会社のお客様電話相談室のようだ。
―片上様、こちらにお部屋をご用意いたしましたので、初期化までの間こちらでおくつろぎください―
デパートのような放送案内が聞こえてきたかと思うと、壁の片隅のドアが開いた。
もしかして、これが地獄の入り口?とビクっとしたが、何のことはない。
開いたドアの向こうにすぐ壁が見えた。
部屋の中は6畳ほどの小さな部屋で、清潔な白い壁、20インチのTV、ソファ、それに小さなテーブルの上に、お茶の用意がされてあった。
人のいた形跡はない。
念のため、部屋に入ってもドアは閉めなかった。もしかすると私が入ったとたんにドアが閉まって、そこから地獄の恐怖が始まるのでは…と考えたが、そんなことはなかった。
カタカタ、ウイーンとドアの向こう側からパソコンの音が聞こえてくる。
ときおり、女性の軽やかな話し声も。
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