キ ミ に 傘 を 貸 そ う 。
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2人で会ったその日。 何もないつもりで会ったその日。 私の誕生日を祝ってくれるという名目で会ったその日。
やっぱり私は貴方が好きだったし、 貴方は私をもて遊んでしまおうと思っていたんだと思う。
2人で食事をしていると、突然 「はるかちゃん。はい。誕生日おめでとう。」 と小さな白いテディ・ベアを渡された。
プレゼントなんて用意してくれてないと思ってた。 お店だって予約とっていなかったし。 普通にいつものように、飲むんだと思ってた。
ありがとうございます、と私はとても喜んで 貴方の前ではしゃいだ。 すると貴方は別の小さな袋を取り出して 「はい。」と言って私に渡した。
魅惑的な青色。 ティファニーブルーだった。 びっくりした。
まさか、まさかこんなもの用意してくれてるなんて思わなくて。 ただの"遊び"の私にこんなことするなんて。
「俺こういうのセンスないから。気に入るか分からないけど。」 って。
綺麗なシルバーの、重いブレスレット。 正直私には似合いそうにないけれど。 その場で包みとボックスを写真に撮って、早速左腕につけた。 「俺だと思ってね。」
お店を出ようとエレベーターに乗った。 かなり酔っている貴方が私を初めて抱き寄せた。 強制的じゃなく、普通に。ハグをした。
何故ならそれは私がAさんにお願いしていた唯一の”プレゼント”だったから。
------何が欲しい?
------はぐが欲しいです。
昔、数回やりとりした会話。
お店を出て、貴方が手をのばして、手をつないだ。 前に2人で会った時、最後なんとなく貴方が手を差し出して 何度か握手をしたことがあった。 でも手をつないだのは初めてだった。
Aさんの手はとてもあたたかくて、私の手は冷たかった。 ふらふらと夜の街を歩いた。
私の終電がなくなるように、あなたは私をひっぱった。
帰る、と帰らない、を繰り返して 何だかもう訳が分からなくなった。
迷いながら歩いている私を見て、貴方は何度も笑ってた。 「はるかちゃんて真面目だよね。笑」 と。
帰ります、と駄々をこねた。
「何がネックなの?」
貴方が結婚してること。
「どうしてだめなの?」
こわいんです。 Aさんのゴールは私と寝ることでしょう? それが済んだらAさんのゲームは終わり。 Aさんは私のことどうでもよくなります。
「そんなのそうなってみなきゃ分からない。」
ちゃんと想像したことあります?
「30分後のことも想像できないオレにはそんなこと分かんない。 はるかちゃん、ほんとのオレを分かってないんだよ。」
もうこれきりなの。
来週からどうなるかなんて私には分からない。
『悪い女だね。』
貴方は何度か、その夜にそう言ってた。
悪い女はだめですか。
『いや、好きだよ。』
貴方の隣で、ずっと昔、思ったことを言った。
Aさん、私ね。 まだ私がAさんのこと好きだって、Aさんが知る前。 Aさんになら、遊ばれてもいいから抱かれたいって思ってた。
『早く言ってよ。それなら5秒で叶うのに。』
本当にこんな日が来るなんて、想像もつかなかった。
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