校内合唱コンクールが終って私達は音楽室にいた。 部活の顧問の先生とゆーちゃんと私。 もう6時。外は暗くなっていて、空気はしんみりとしていた。
私とゆーちゃんは音楽室でいつも通りのふざけた会話をしていた。 そしてふといい間ができたので私は言った。 「先生、『私を泣かせてください』歌ってくださいよ〜」 ピアノの発表会で私がこれを歌うことを知ってるゆーちゃんは即座に 『あ、手本にするんだー』と思って一緒にせがんでくれた。 先生は修理から帰ってきたPCを再インストールしながら 「なんでー」 と、面倒くさそうに返事をした。 「実は私、これをピアノの発表会で歌うんですよー」 「何で、ピアノの発表会なのに歌うの」 私は慌てふためいた。 まさか、単刀直入に「歌いたくて頼んだんです」なんていえない。 私はいつもはそんな積極的なキャラじゃない。 「えっ、えーと。私これが最後の発表会なんですよ」 なんだか質問に対してあっていない答えだけれど、 あわてふためいていた私にとっては精一杯の理由だった。事実ですし。 「なんで最後なの」 意外な反応だった、 「へ?来年になったらピアノやめるんで・・・」 そんなの決まってるじゃないか。そんなの・・・。 「やめるの?」 先生はあくまで淡々と言った。 「あー、来年には。はい。」 私も淡々と答えたつもりだ。 けれど、 私のすぐ向かい側にいたゆーちゃんは、ハッと息をのんだように見えた。 私の目からはいつのまにか涙があふれていたから。 先生はずっとPCに向かっていたので気付かなかっただろう。 私はゆーちゃんを見て、 自分の口に人差し指を立てて「言わないで」と合図してから、 ごく自然に左手でほおずえをついて、先生から目が見えないようにした。 あいかわらず目からは「止まれ」と願う意思とは反対に ボロボロと涙があふれてくる。 ゆーちゃんはずっと私が泣いているのは黙ってくれながら、 いつもとおりの口調で会話をもたせてくれた。 そして私達は先生にごく普通に「さようなら〜」と言って、 駅まで歩き出した。
帰り道で、いったん止まった涙がまたあふれだした。 口調も声のトーンもまったく変わらなかったけれど、涙だけはとまらない。 ゆーちゃんと音楽学校の話をしながら、ずっとそうだった。 でも我慢しないでボロボロ泣いた。恥ずかしくなかった。 初めてだ。コンクールの時に見せた感激の涙とは違う。 誰にも見せたことのない涙だった。 ゆーちゃんは特別優しくなるわけでも、責めるわけでもなく いつもどおりに話してくれた。
友達に初めて涙をみせた一日だった。 ずっと隠していた思いがあふれでた一日だった。
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