---□□草原で独り言□□---

2006年12月27日(水) 指揮者

その人は話した
己の中にながれる音楽を
だが みんな
聴こうとしなかった

その人は口を閉ざした
すこしおそれた
己と他人との距離に
悲しさをおぼえた

だが その人は
あきらめはしなかった

あるとき その人は
無防備に笑みをたたえた
己の身を守るための
疑心を捨てた

そして 伝えようと
己の腕を 足を 全身を
彼は 音に自らをたくしだした
みんなの眼をみつめながら


ふと 

とつじょ
ティンパニの音


気高く ひとつの音が
空間にこだました
まさしくそれは
一人の者が 伝えの声に応えたしるし

「すばらしい音だ ありがとう」
指揮者は 微笑んだ

それは 歯車をまわす
きっかけとなった
その響きの美しさに
ひとり また ひとり
と 彼の伝えたいとするこれに
耳をかたむけ
指揮者はそのたび
ひとり ひとりに微笑んだ
ああ
その音のなんと美しく
なんとおおらかに私らを満たすことか

ひとり ひとりと
その響きにひきよせられてゆく

そして
だれもが微笑み
呼吸をあわせ
彼の伝えたいたいものを
一心に聴いた
そして 己のものとし
ひとり ひとりと
鼓動をあわせた


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S.Soraka [MAIL]