水野の図書室
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| 2002年06月07日(金) |
松本侑子著『防波堤』・おわりに |
「別れの手紙」(角川文庫)の最後の物語は、自分の存在価値を探し求める 女の物語です。つきあっていた恋人からのプロポーズを断って、自分の気持ち のままに生きていく葉子は、どこにでもいるような30代のOLです。
どこにでもいるような・・これは便利な言葉ですが、実態がよくわからない 言葉でもあります。葉子は、見た目は平凡なOLですが、その胸の内に女同士 の恋愛に欲望を感じる激しさを秘めているのです。
男性がプロポーズする時、僕が君を守るという使命感にも似た気持ちになるの は、わかるような気がします。タイトルの『防波堤』は、葉子の結婚観と 恋人、浩の結婚観とふたりのズレを表していて感心しました。
男が女の防波堤になるという図式は、男性の意識の中に根強く、これからも なかなか変わらないと思いますが、女性は変わっていくと思います。 恋愛の延長に必ずしも結婚があるわけではないと考える女性が増えているように 感じます。
葉子は浩に別れの手紙を書きますが、あえて渡すことはしません。 それはなぜか、読んでみて下さい。
メールではなくて、手紙もいいものです。
この短編集には、他に瀧澤美恵子『ドンツク囃子』、玉岡かおる『花の潮流』、 藤堂志津子『グレーの選択』が収められ、まったく状況が異なる男女が登場しま す。そして、綴られる別れの手紙はどれも力強く、終りではなく、始まりの予兆 を告げるものになっています。再生するための別れなのです。
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