恋愛日記



 午後。

―午後―

 きらきらきらきら。
 あたしは寝ているように見えるだろうか。目を閉じ、肩肘を付いて、微動だにしない様は、クラスメイトや先生からしても其れは寝ていると思われているのか。
 実際僕は何かを見ている。其れが何かなのかは知らない。
 名称が解からないだけじゃなく、実際そこに存在しているのかも解からない。
 其れは目の錯覚なのかもしれないけど、だけど確実に、あたしは何かを見ている。
「黒田君、起きなさい」
「・・・はい」
 別に寝ているわけじゃないけど、説明したら長くなるし、面倒臭い。
 先生達はもう忘れているんだろうな。それか知らないか、だ。こんなに綺麗なのを忘れるのは至極勿体無い。
 そしてあたしは再び瞼を下ろした。

 ざわざわと此処はいつも騒がしい。静かなのは授業中か、殆どの先生方がタイムカードを付けて帰宅した時位か。授業が終る度に、此処は生徒で溢れかえる。
 僕は5時間目の後、その教科担任に呼び出されて此処に来た。
「・・・居眠りの注意かな」
 一度目の注意の際は寝ていなかったとしても、再び目を閉じた後に睡魔が襲って、今度は寝てしまったとあらば、一度目の時の事も寝ていたと認識されるのは当然だ。
 けど言い訳をするなら、昼食後の授業は辛い。今日だって朝から部活の練習があって、昼休みに嘉子とバドミントンをやって。今のうちに体力を回復しておかなきゃ放課後の部活に備えられない。
 ちら、と先程先生が行った方に目を遣ると、なんとクラス担任まで連れて生徒の波を押し退け、やって来た。
 最悪。
「黒田」
 私立の先生って何でこう、結構な年の先生ばかりいるんだろう。それとも単にうちの学校がそうなだけなのか。判断の基準が解からないから、先生の呼び声にも心の中で苦笑しつつ、いつもの笑みを返した。
「お前まだ進路希望表出シてなかっただろ」
「ああ、はい」
「期日はとっくに過ぎてるンだよ〜」
 この担任はしゃがれた声で、少し訛って話す。
 何時の間にかさっきまで横にいた先生は、もう何処かへ行ってしまったようだ。授業のお小言無しで担任相手に話すなら、普通に聞き流せば早く終る。
 そう思いながら上の空でいると、いつもより強い口調で、話し始めた。
「大学に行くにシテも、そう書けばいいし、成績的に見てもお前は優秀なんだからイイトコだって狙えるよ」
 そんな風に言われるのは、嫌いだ。
「夢とか、なりたいモノとかあるだろ?だったら・・・」
「先生」
 嫌いだ。
「ユメなんて、有りません」
 そう言ってあたしは、職員室の扉に手を掛けた。
 廊下を歩きながら、我ながら軽率な事をしたと思った。何故あそこで感情的な部分が駆り出されたのか。もっと巧くあしらえる方法は幾らでもあるのに、本音を言ってしまったのは自分でも驚いている。
 焦っているのか。
 夢なんて、砂上の楼の様だ。その楼に登って天を仰ぎ、陽を夢をみても、足元から崩れていく。けれどきっと、其れを知らないから皆は夢をみる。容易く崩れる事を知ってしまったらそんなモノは抱けないと思うのは、あたしだけだろうか。
 無知は時に罪だが、樂である。
 ゆめなんて、ゆめなんて。
「・・・あぁ、ゆめなんて」
 だがあたしは、なりたい職業の事を『夢』なんて呼びたくは無い。そんなのは莫迦げている。

 教室に入るとタイミング良くチャイムが鳴って、直ぐに授業が始まった。
 一番窓側の列、前から3番目。窓から光が良く入る特等席。
 きらきらきらきら、光が入る。
「人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける」
 昔、アナウンサーを目指していたと言うだけあって、活舌も発音も良く和歌を朗読する先生の声を聞きながら僕は、太陽にむかって瞼を閉じた。
「人はいさ心も知らず、の意味は下の注釈に書いてある通り・・・」
 目を閉じるのではなく、只、瞼を下ろす。
 きらきらきらきら。
 瞼を下ろしたまま、太陽を見る。別に難しい事じゃあない。意図的にしようと思えば、出来る。
 そうすると見えるのだ。いつも同じじゃないけど、赤い血潮のようなものだったり、スポットライトが差したような光だったり。
 そして時に、金箔が。
 まるで世界に金粉が降り注いだみたいに感じる時がある。
 きらきらきらきらと、とても綺麗に瞼の内側で光る其れは、何物にも形容し難い。
 夢に夢見るとは多分こんな感じで。
 だからあたしは、夢と呼ぶなら此れを呼びたい。
 夢、と。
「人の心は、さあ、どう変わってしまったかわからないが。と、言っているんだね」
 変わってしまったのだろうか、皆。
 この事を、誰が憶えているんだろうか。きっと幼い頃は少なからず意識していた筈なのに、段々と綺麗な事の意味を取り違えて、夢を夢と思わなくなって。
 忘れたくないこの想いを、いつかは僕も忘れてしまうんだろうか。
「忘れたくないよ・・・」
 考え方が古くて頭が固い先生達は、きっと忘れてしまった。
「黒田、起きなさい」
 だからあたしは憶えていよう。
 あたしだけは憶えておこう。
 そう、この夢を、ずっと抱いて。
「・・・はい」
 そして、瞼を上げた。

【END】




***独り言***
っつーか今の時期に進路表出して無かったら完璧アウトですって。留年?(笑)
今回は全然実録無いですが(あるとしたら呼び出しと居眠りとバドミントン位)ガッコで感じた事というか。
うちのガッコは週休二日制で今日は休みなんですけど!昨日書かなかった分、書いとかなきゃと思いまして!(爆)
あ〜…冬休み動いてなかったから久しぶりにバドミントンすると疲れて疲れて。
更に昨日は体育でドッジボールとかやっちゃたから、今日は朝起きた時からいろんなトコが筋肉痛です。
3連休なんで寝まくります。ゲームやってゲームやって寝ます。
では。


2002年01月12日(土)
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