月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
10年来、工房に勤めてくれていた二人の従業員さんたちが、同時に退職することになった。 作品の包装や梱包、発送などの業務を一手に引き受けてくれていたNさんと、土づくりと型の仕事を黙々とこなしてくれていたHくん。 窯元としての仕事の重要な部分を担ってくれた二人の不在は痛い。 幸い、H君の仕事を受け継いでくれる新しい職人さんは、ひょんな偶然からすぐに見つかった。この春からオニイが通っている学校の卒業生だと言う。 今週初めから出勤していて、Hくんから土作りや型仕事の引継ぎをしてくれている。 一方、Nさんのやってくれていた包装や梱包の仕事は、当面のところ私が引き受ける事になった。以前には義母と一緒にやっていた仕事なので出来ない事ではないとは思うが、釉薬掛けや調合の仕事と並行して果たして務まるのだろうか。 来月末には窯元主催の大きな茶会を控え、これからはその準備に最もあわただしい時期に入る。 漠然とした不安がわらわらと沸いて来たりする。
いつもどおり、淡々と通常の業務を終えて、Nさん、Hくんは帰って行った。長い間置かれていた二人の私物や道具類が片付けられ、それぞれの仕事場が何となくそこだけガランと空いたような気がする。 従業員である彼らは、何か事情が出来たり、辞めたい気持ちになったりすれば、早々に自分の仕事場を片付けて新しい職場に渡っていくことも出来る。 それに比べて、窯元の嫁である私は、おそらくは生涯この職場を離れることはない。 夫である父さんがここで仕事をし、成長した子ども達がこの仕事を受け継いでいく限り、私もまたこの場所で、黙々と釉掛けをし、汚れ物を洗い、梱包や包装の仕事をちまちまと片付けながら老いていくのだろう。 家族で家業を継いでいくということは、そういうことなのだろうなと、しみじみと思う。
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