月の輪通信 日々の想い
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朝からよいお天気。 子どもらはそれぞれに慌しく出かけていく。 今日はアプコの通う小学校の入学式。 6年生になったアプコは、最高学年として新入生を迎えるために少し早めに家を出た。 高3に進級したアユコは、春休み最後の講習。 少し遅れて、高校の入学式を控えたゲンが、制服を受け取りに出かけた。 久しぶりにみんなが出かけてガランとした家の中。 ここぞとばかりに窓を開け放し、掃除機をかけ、干し物をする。 春になると、窓ガラスの汚れがやたらと目に付くようになるのは何故だろう。 川向こうの山桜が、ハラハラと花弁を散らして、水面に落ちる。
ゲンが進学するのは、アユコとおんなじ、隣の町の公立高校。 「自転車で通学できて、剣道が楽しくやれそうな学校」というシンプルな志望動機で選んだ学校だ。 制服は黒の詰襟学生服。これに防具袋と竹刀を担いで自転車に乗れば、古風な昭和の高校生の出来上がり。朴訥で、とんとオシャレの香りのしないゲンにはお似合いのスタイルになるだろう。 そういえば、先日、東京の弟からゲンに電話があった。 「入学祝いに何が欲しい?」と問う弟に、ゲンは「満ち足りてます。」と答えたのだという。あとでふたたび電話をしてきてくれた弟が、笑って教えてくれた。 これといって贅沢なものを買い与えたこともない。 特別甘えたり、何かをねだったりするわけでもない。 一緒に買い物に出かけても「いいよ、いいよ。」と首をふる無欲なゲン。 15の春を迎え、新しい環境の中へ歩き出そうという今、彼の心のなかに溢れるほど満ち足りているものとは、いったい何なんだろう。 実り多い高校生活となることを祈る。
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