こときり
こときり それは一片の山が独りの溜息でさらりと崩されていくような! こときり それは深海の底の一握の砂が自重で潰れながらマリンスノーの夢を見るような! こときり それは小指の爪が出会う麒麟にも似たイマジナルな物質の浮遊に匹敵するような! こときり それは小高い丘の果てで人知れず枯れていく草々が想うまだ見ぬ星々の煌きと瞬きのような! こときり それはファンダメンタリストが自身の手の皺を見て思わず口ずさむ遠い日の母の歌のような!
僕たちが未だ僕たちを超えられないことを思へ! 僕たちが未だ超えられない世界に浮遊することを思へ! 僕たちが未だ浮遊するが故に上昇も下降も同等であることを思へ! 軌道エスカレーターの描く直線は憧れと拒絶とをない交ぜにしたアイナメに舐められたナメクジの触覚が慟哭とともに相克する盲目の興国と刻等の透谷、コクトー! ジャン・コクトー!
神秘の事故、天の誤算、 僕がそれを利用したのは事実だ。 それが僕の詩の全部だ、つまり僕は 不可視(君らにとっての不可視)を敷写(しきうつし)するわけだ。
こときり! それは未だ成されざる理(ことわり)を切り裂く雨情にも似た それは未だ成され得ぬ理(ことわり)に注がれる無上の霧にも似た それは未だ利用されざる神秘の事故、天の誤算、僕の詩、以外のすべてにも似た
こときり! 不可視(僕にとっての不可視) 敷写(しきうつし)されるべき不可視 未だ切ることのない、 未だ毟り取ることのない、 神秘の事故、 天の誤算、
そして、 詩人の血よ
※3連「神秘の事故、天の誤算、〜」…ジャン・コクトー作「自画像」より
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