おひさまの日記
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2010年11月09日(火) |
「ママ!」のそれからの話 |
「おいでよ」
「えみちゃん、大好き」
そんな声にいざなわれて、おひさまぽかぽかな中、ウォーキングに出かけ、 素敵な体験をして帰ってきた後の、それからのお話。 不思議だなぁ、生かされてるなぁ、ありがたいなぁ、って思うお話。
ここしばらくの間、私と母の間には確執があった。 いつもぶつかり合い、いがみ合い、仲良くすることができないでいた。 でも、本当は仲良くしたかった。 母を大切にしたかった。
帰って何気なく台所のテーブルに座ると、母も向かい合わせに座った。
「今日は天気がよくて気持ちいいね。 歩いてきたら気分がいいよ」
私は母に差し障りのない言葉をかけた。
私は、母につらい生い立ちがあることを知っていた。 小さい頃に母から聞いたのだ。 けれど、心が育っていなかった私は、ふうん、と聞いていただけだった。 記憶も曖昧で。 ただ、母にはつらいことがいっぱいあったってことは、わかってた。
最近になり、なぜだろう、その話をもう一度ちゃんと聞きたいと思うようになった。 父が亡くなり、自分の親もやがてはいなくなるということを肌で感じた時、 母のことをよく知っておきたい、母の生きた歴史をわかっておきたい、 そこで母がどんな気持ちだったか、そして、ここまでどんな思いで生きてきたか、 誰が知らなくても私は知っておきたい、そう思うようになったのだった。
母が生きた証を私が知ることで残したい、そんな気持ち…なのかもしれない。
けれど、母とぶつかってばかりのこの頃、顔を合わせれば言い合い、 そんなこと聞き出せるはずもなく、 言い合いの末に自分の部屋に戻る時、きまって悲しい気持ちになった。
でも、言いたかったのだ。
「お母さん、お母さんの昔の話聞かせて」
静かな午後。 テーブルに向かい合わせに座っていると、母が急に自分のことを話し始めた。
聞きたいと思っていた母の昔の話だった… 私の願いが届いたかのように、母自ら。
つらく悲しい話だった。 でも、私は逃げないで聞いた。 自分の母親が母親である前にひとりの女性であり、 そのひとりの女性がどんな体験をしてきたか、どんな気持ちで生きてきたかを。 母は時折涙を流しながら話した。 私も泣きそうになったけれど、なぜだろう、ぐっとこらえた。
話し終わった母は、自分の指をもてあそんでいた。 聞きたかった話が聞けて私はうれしかった。
そして、今度は私が自分のことを話し始めた。 父親から虐待を受け、逃げるように家を出てからのことを。 色々、色々。 今まで話さなかったことも、色々、色々。
母は、そうか、そうだったのか、そう言って黙った。 私は、そうだったんだよ、寂しかったんだよ、そう言って黙った。
午後の日だまりの中でふたりでおやつをつまんだ。 私の中にあった母へのわだかまりが消えていた。
私は初めて母に静かに寂しかったと言った。
もう何も話さなくてもよかった。 ただふたりでおやつを食べているのが心地よかった。
ふと、思い出した。
歩いている時のことを。
「愛しています、愛しています、愛しています」
その声がいつまでもいつまでも私を包んでいた。
声にいざなわれて外に出て歩いた私に何が起こったのかは今でもわからない。 けれど、理解を超えたところで、確実に私に何かが起こった。 その不思議を解明しようとも理解しようとも思わない。 ただ、ただ、受け取った。
そして、帰った私に母が自分のことを話し出した。
「お母さん、お母さんの昔の話聞かせて」
そう言って聞かせてほしかった話を。
それから、私と母は以前のようにぶつかり合うことが減ってきた。
そして、ここでそれが完結したのだと慢心せず、 この心地よい状態の中にいられる自分である選択をし続けよう。
不思議だなぁ。 うれしい、ありがたい、本当に、本当に。 そして、これからもこんな不思議の中で生きていこう。 この不思議は、本当は不思議じゃなく、 いつも私達の周りにあるものなんだと、私は確信している。
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今日の「まるおくん」アップしました。
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