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2003年01月08日(水) 初日の幸せ。

●午前2時20分帰宅。酒を飲んで帰った、今日も。

●初日を迎える。長らくこの仕事をやっているが、こんな幸せな初日はめったにない、と思えるような初日。
 わたし自身、過分な責任と、過分な職務をこなしてきて、達成感みたいなものはあったのだけれど、今日、舞台の上に立つ俳優たちを見ていて、自分のやっていることなど実に当たり前で普通なことのように思えてきた。それほどに、俳優たちはプレッシャーを乗り越えて、実に伸び伸びと、生き生きした人間だった。わたしは、自分があれこれと創ってきたものであるに関わらず、単純に感動してしまった。
 そして、逆に、彼らにそのような場を、平和に与えることができた自分を、ちょっと誇らしく思った。……実に幸福なことだ。

 愛情を感じて。自分(自我)を忘れて。知力も体力もフル稼働して。そして、他者からいろんな種類の愛情が返ってくるということ。

●明日から別現場。あさっての稽古初日を控えて、稽古場仕込み。午前7時起床。こんな大変な毎日なのに、元気で快活な自分が不思議。責任をしょっているから、ということもあるだろうが、基本的に楽しいんだろうな。
 そして、こんな日々にあっても毎日酒を飲んでいる自分に驚く。まわりの人々に比べてどう考えたってスタミナのある体に産んでくれた、母に感謝。
 でも、たまには酒を飲まずに帰って、勉強しなきゃな……。


2003年01月07日(火) 明日は初日。

●2日間劇場の側のホテルに泊まり込み、昨日はタクシー帰り。今日、最終的な舞台稽古を終えて、ようやく日付の変わらぬうちに仕事を終えた。
 自分の職能から言えば、当然のことをしているだけなのかもしれないが、時折、自分で自分を誉めてやりたくなる。よくやってるよなあ、わたしって、って。

●明日は初日。通し稽古があまりにうまくいって、感動的だったものだから、逆に初日が心配。さて、どうなることやら。
 これを開けると、息つく間もなく、次の稽古初日を迎える。当分は、昼間は新作の稽古を仕切り、夜は劇場で本番を見守る仕事。困ったことに、この両現場を移動するのに、1時間半を要する。
 わたし、生きてられるかな。


2003年01月03日(金) 劇場入り。

●最終通し稽古を終えて、劇場入り。ここまでも頑張りどころ。ここからがまた頑張りどころ。
 人の心に触れる、仕事の仕方をしていきたい。
 急がしくっても、時間的に追われていても、失うべきでないものは、忘れちゃいけないものは、たくさんある。
 じっくり思い返したら、何か気楽な本でも読んで、眠りにつこう。早朝から深夜までの仕事が、初日を開けるまで続く。


2003年01月02日(木) 雨が降ったら「雨が降った」と書く。

●新しい年開けて2日目だと言うのに、のっけからハイテンションの通し稽古。昨日食べたお餅や昨日飲んだ酒の重さも感じさせず、日常の匂いをはねのけて劇的時間を生きる俳優たちに感動。
 明日は最後の通し稽古。その後、劇場入り。さて、いよいよ。

●今年はとにかく、この何年かで最も忙しい上半期になりそう。こういう時期、わたしはとかく書き留めることを忘れてしまうのだが、これからは少しずつでも、書いていこう。何が書けなくっても。雨が降ったら「雨が降った」と書く、そんなのりで。
HPのIndex頁に引用している、あのアイザック・ディネーセンのことば通り。


2003年01月01日(水) 正月というよりは、ただの休日。

●のんきな休日。夜の12時を過ぎて、やおら仕事を始める。本当は2日の休日の間、やっておくべきことは山ほどあったのだけれど、どうしても一度仕事を忘れて休みたかった。でも、忘れていることなど、もちろんできない。敢えて、仕事をせず、のんきに過ごしてみることくらい。
 次ぎに休めるのは、20日の予定。今の芝居の初日を開けたら、翌日から、次の稽古が始まるのだ。これは、ロンドンのナショナルシアターに持っていく、大きな仕事。5月の千穐楽を終えるまで、ノンストップだ。
 


2002年12月31日(火) 祈念する心

●昨日から、8日の初日を目指して、劇場仕込みが始まった。朝から資材が搬入され、どんどん照明機材がつり込まれていく劇場を眺め、稽古場へ。稽古を終えて、また仕込みの進む劇場へ。もう基本舞台ができあがっていて、いよいよという気持ち高まる。
 この間の後悔はあっという間に消えたか、それから照明チームの忘年会に紛れ込んで酒を飲み、そのあと恋人と5時半まで。

●大晦日、1月1日、と、うれしい2日間のお休み。
 オーストラリアに仕事で出かけてしばらくNGだった主演俳優から「元気に戻ってきました」の電話があり、頑張りましょうと声をかけあった、来年初頭の舞台がよりよきものになるように。

●1年という区切りの時だからといって、ことさらに思うこともないのだけれど、それでもやっぱり、改めて祈ってみたりする。新しい1年は、どうぞ少しでも哀しみや苦しみより、喜びや楽しみが多いようにと。この身にも、近しい人たちにも、すべての命あるものにも。
 テレビでは紅白歌合戦。なんとなく眺めたり聴いたりしながら、わたしが、わたしたちの芝居が、世の中が、これからどうなってくのだろう? と、思いを馳せたりもする。

●平凡でも単純でも当たり前でも、幸せであれ、平和であれ、と祈念する心。


2002年12月28日(土) またしても深酒、反省しきり。

●大事な通し稽古を終えて、少しほっとする。ほっとしてプロデューサーと飲みに行ったら、ついついまた調子に乗ってしまい、気がつくと朝の五時。話していたのはほぼこれからの仕事についてであったから、無駄な時間ではなかったが、睡眠不足と二日酔いのさんざんな状態で稽古場へ。まあ、なんとかなってしまったが、やっぱり仕事はベストな状態で立ち向かうに限るので、反省しきり。

●「GO」を撮った行定監督が、演出家との対談のついでに稽古場に遊びにくる。紹介されて話すうち、クリエイティブな仕事をしている人独特のオーラと、面白いことへの欲求の強さを感じる。
 確かにわたしの今の仕事は大変で、この肩にたくさんの責任がのしかかっているが、基本的には他者の仕事のサポートに相違ない。
 自分から発信して創ること。早くそこに行きつかなくては。……やっぱり、酒ばっかり飲んでる場合じゃないな。

●仕事は30日まで。新年2日から。さあ、いよいよ初日に向けて、緊張感高まる。


2002年12月26日(木) こたえられない美味さ、ズッキーニのフリット。

●昨日は、主演女優のNGで、全関係者にうれしいOFF。人並みにクリスマスに休めることになった。家庭を持つ人たちには何よりのプレゼントだろうと思う。出演者の一人には、この日、第二子が誕生。それぞれの休日、それぞれの一日。
 わたしは、先週、タイトな稽古に仲間の死が重なって、疲労困憊。風邪をひいたのか、ただ単に疲れたのか、知恵熱のような高熱をだし、半日寝込む。でも、病は気からといったところか、夕方、恋人が買い物袋を抱えてやってきて、二人で料理を始めると、俄然元気が出てくる。
 二人で4品作ったが、何よりわたしの作ったズッキーニのフリットが最高に美味しかった。ズッキーニのみじん切りとすりおろしを混ぜ合わせたものに、溶き卵と小麦粉を加え、パルメジャーノのすりおろしを山ほど加えて丸め、揚げるだけ。この、上等のパルメジャーノのすりおろし山ほど、というところが味噌だ。
 今年わたしが作った料理の中で、群を抜いた美味しさだった。美味しいものを食べるのも幸せだが、美味しいものを作ってしまうというのも、なかなか幸せなことだ。うん。
 美味しいシャンパンも加わって、実に気持ちのよい時間を過ごした。

●休み明けの今日は、実に実に集中力を要する、大変な稽古。11時から9時まで気を抜かない時間を過ごしたあとは、もう腑抜け状態。スコーンと寝て、また、明日、しっかり働く。今は仕事が楽しい。


2002年12月23日(月) やっぱり、いいのだ、生きていることは。

●仕事を終えて、仲間のお通夜に静岡まで出向く。11時を過ぎていたが、泊まりこみの懐かしい仲間たちが顔を揃えていた。
 やはり俳優仲間であった奥さんが、「顔を轢かれたので、2枚目がかなりひどいことになってるの。だから、死に顔は見ないでもいいよ。もし見るんだったら、すぐにかっこいい写真を見てね。そっちを覚えていて欲しいから」と言う。
 遺影に手をあわせ、死に顔は見ないままにしようと思っていたら、仲間のひとりが「見なきゃだめだよ、ちゃんと見てお別れしてやらなきゃだめだよ」と、わたしの手を引き、再び棺の前に。
 崩れてしまった顔と対面し、歪んでしまった唇に、綿棒で、大好きだった焼酎を唇に塗ってあげた。そして、やはり大好きだったショートホープに火をつけ、お線香がわりにした。煙にむせながら、お別れをして、そして、2枚目だった彼の写真を長らく眺めた。

●奥さんは、彼の両親が感情的な人たちだから、わたしが泣いてちゃなんにも進まないのよ、と、ひょうひょうとしている。まだ泣いていないと言う。あれだけお互いを必要としていたカップルなのに。
 彼女ののろけ話を聞いたり(!)、懐かしい思い出話をしたり、馬鹿を言い合ったりして、夜を過ごす。知らぬ間にそこら辺で寝てしまい、6時半に再び彼の遺体に別れを告げ、稽古場に向けて新幹線に乗り込んだ。

●寝ていなくっても、心が揺れていても、やっぱり仕事場に着いたらしゃんとした自分がいる。わたしは仕事に恵まれた幸せ者だ。
 仕事を終え、心配してくれていた恋人に会い、美味しい食事とワイン。生きていることを二人で喜んだ。何がなんでも長生きしようねと、お互いに誓った。

●やっぱり、いいのだ、生きていることは。


2002年12月21日(土) そして。

そしてまた1日が終わる。一日の終わりにとても悲しいことがあったが、明日はすぐそこまで来ているので、泣いてはいられない。
眠ろう。


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