「あちらに見える低い山の、そのまた向こうに
こひすて山というのが在ります。
皆、置いていかれるのをわかっていながら、
華奢な指で 口元を隠して、上品に笑って
ハンケチで額をせわしく拭きながら、後をついて登って
あとは、ただ、じっとしているのです。」
手紙の裏に書いた、そんな、文を読み
キミは真っ赤になった。
長い睫を、ちちちと震わせ
「非道いヒト!」
僕の腿をぴしゃりと叩いた。
僕はニヤけて、表へ、飛び出す。
仕合せである、そう、思いたい。
誰かに、僕を見てもらいたいってね?
そう思えるから、言葉を紡ぐのです。
ほんとは、ね。
『キミが好きです。』と書いて、キミが
「まあ、嬉しい」と笑ったら、それで、いいのだけれど。
だけどそれぢゃあ、あまりにも、僕ってやつが
可哀相だから。
ココロザシ 云々。
作家なんていうのはね、たぶん
恋するひとに威張りたい奴が、なるものなんですよ。
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