陽あたりの良い、北風を建物でさえぎられた、 守られたソメイヨシノは、 穏やかにひとひら、ふたひらと花弁をほころばせている。
長かった冬も、ようやく終わろうとしている。
一年前、 長く続けた派遣先を退職した。 その頃の冬の寒さが、 いつまでも身体の底につめたくよどんで、 消えなかった。 ずっと、冬のままだった。
そういえば去年は、 風邪をひいて満足に花見もできなかったっけ。 それ以上に、 気持ちが風邪をひいていて、 どんなに美しい景色も楽しい時間も、 ビー玉のむこうみたいにつめたく遠くちいさかった。
春も夏も秋も冬も。 現実感のないまま過ぎ去った。
温かみを失えば、 そのあたたかさをなつかしく、いとしくおもう。 失う程に、痛い程に、理解る。 その、大切さ。
そして、何も残っていない。 それでも、 何も、うしないたくない、 とおもう私の気持ち。
それでも、 今は、 そんな気持ちを少し預けて、 週末には桜をみにいこう。 やっとここまでこられた。
そして、ときどき、春。
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