猫の足跡
一覧|過去へ|未来へ
2002年09月08日(日) |
911と宝塚の関係を考える |
予定どおり、ゆっくり起きてスパに入って…ブランチして…と思ったら、なぜかホテルのレストランはイベントでどこも満席どころか待ち時間30分以上だとか! 短気なワタクシは、優雅な休日が蹂躙されたことに逆上して、コンシェルジュに「宿泊客なのに、一般客に追いやられてご飯が食べられないなんてちょっとヒドイんじゃなくって?どこでもいいから席を用意して頂戴」と高飛車な文句を言って無理やりブランチしたりしましたが、まあそれはそれ。満足してチェックアウトし、有楽町に向かいました。
お目当ては宝塚雪組公演。ヅカファンのT嬢の取ってくれたチケットで観劇です。私は宝塚4回目。K嬢は2回目?とともに初心者なのでワクワク楽しみにしています。
前半の「追憶のバルセロナ」は19世紀フランス統治下のスペインを舞台にしたミュージカル・ロマン。新トップコンビ、絵麻緒ゆう、紺野まひるのお披露目公演かつ引退サヨナラ公演。さらに二番手の成瀬こうきも引退サヨナラ公演というなんだか混乱してしまうけれど重要な公演だけあって、力の入ったいい演目でした。
フランス軍の侵攻を食い止めるべく出征する主人公フランシスコとその親友アントニオだが、戦いに破れ、フランシスコは行方不明となる。アントニオは、フランス軍への反抗を理由に囚われたフランシスコの家族や、密かに思いを寄せるアントニオの許婚セシリアの家族を救おうと、フランス軍に協力する。行方不明のフランシスコを待ちきれずに、アントニオと結婚してしまうセシリア。一方、アントニオは記憶喪失でジブシーに身を助けられ、だんだんと記憶を取り戻しながらフランス軍から祖国を取り戻そうとする。そんな彼を慕うジブシー娘イサベルの切ない恋心。
統治下のカーニバルで3者が再開し、分かれてしまった立場の違いや恋人を奪われたことを悲しみながらも、友情と祖国への気持ちは変わらないことを知り、物語はクライマックスへ向かいます。
運命のいたずらで祖国と恋人、友情を失い、そこから立ち上がるフランシスコの勇気、見守るイサベルのいじらしさ。最善を尽くしてとはいえ、祖国と親友を裏切るアントニオの葛藤など、とにかく脚本が良かったです。これは帰りにK嬢にぽろっと話したことだけれど、「アントニオが祖国と友情を取り戻すために、フランシスコの身代わりで死んで、フランシスコはセシリアと元のさやに収まっった挙句、愛する人と祖国を守って強く生きていこう、とかっていうオチになるベタな脚本じゃなくて良かった」です。
※とか言っていたら、ヅカファンT嬢は、もっと深い読みでした。ベタなオチとしてセシリア殺すことは思いつかなかったな。さすが!
苦言を呈するとしたら、余計だったのはエスメラルダ、クリストフ伯、イアーゴ。ベテランの役者さんを使いたい、うまい演じ手で舞台を締めたいっていうのは分かるけれど、明らかに浮いていますし、使われ方、重要性のもたせ方がわざとらしくて変です。宝塚というシステムの中では仕方が無いのかもしれませんが、非常に気になりました。
あとは、脇役アントニオの葛藤がきっちり描かれた上に、役者さんが見栄えがするので、主人公の絵麻緒ゆうがすっかり霞んでしまったこと。ヒロインもちょっと単純で「教養も家柄もなにも無いけれど、まっすぐで情熱的なジプシー娘」を演じすぎていて、「演じすぎで薄っぺらく見える」というのが残念。どう考えても「アントニオ素敵〜」が一番の感想になってしまいましたからねぇ…。宝塚的にはまずいんじゃないかと。
全体にはとてもとても楽しめました。
後半は、グランド・ショー「ON THE 5th」
これについては、「911までは楽しめた」といっておきましょう。歌あり踊りありの楽しいショーでした。
ただ、楽しいショーに、なぜ「911」をテーマとして盛り込み、しかも、その方向が「GOD BLESS AMERICA」になるのかだけは、どうしても分かりません。しかも、その後、「死んだと思っていた恋人は戻ってきて、ハッピーエンド」でまた楽しいフィナーレのショーになるなんて。
私は、「GOD BLESS AMERICA」の大合唱の中で、怒りと悲しみが込み上げて、泣けてしまってしょうがありませんでした。
死んだのはNYの三千数百人だけではないんだ、その後のアフガニスタンで、いったい何人の罪の無い民間人が殺されたんだろうか。アフガニスタンの人が何人なくなったかは、報道すらされない。テロの後もアメリカの被害者達はすぐに元の豊かな生活を取り戻しているけれど、アフガニスタンの人たちは、難民となったり、食べ物にも困る状態に置かれたりしている。そして、それ以外の国々でも、アメリカを中心とする覇権主義の結果、多くの人たちが戦禍に苦しんでいる。それなのに、なぜこの人たちが、キリスト教徒でもない宝塚のスター達が、アメリカを祝福して歌わなければならないんだろうか。それも「楽しいショー」の一部として。
溢れる感情にごくごくと痛む喉を抑えて客席を見渡しても、皆、平然と舞台を見ています。周りの観客達は何を思っているのだろうか、それを窺い知ることは出来ませんでしたが、このショーの中でテロ犠牲者追悼やアメリカ祝福をしたいと真剣に思っている人はほとんどいないんではないかと思いました。
「みんな、好きなスターが素敵なショーを見せてくれることを、純粋に楽しみに来ているんだろうに」…そう思って、そもそも観劇を楽しむことが出来ることに、また、ショーの内容を真剣に考えなくても、場面が変わったらすぐにまたハッピーエンドを楽しむことが出来てしまうことに、そして、観劇が終われば、家で美味しいご飯を食べることが出来ることに、絶望的な感情に駆られました。いつから、日本人はこんなに無神経で人の痛みや境遇を思いやることのできない民族になってしまったのだろうかと。
演出家や宝塚のスター達が、本当にテロを憎み、911とその後の一連の争乱で亡くなった方々を追悼したいのであれば、街頭で署名でも募金でも、または、舞台でメッセージを読み上げる何でもでもするほうがよほどよかったと思います。 そして、本当であれば、全世界の平和を祈って欲しかったと思います。それぞれの土地で、それぞれの神をいただく、この世の全ての人々が祝福されるように。それが愛と夢を歌う宝塚のあるべき姿だと思うのだけれど。
==その後、ネットから拾ったこと============== こんな報道を読むと、やはりまたやるせない気持ちが込み上げちゃうんですよね。違うだろうって…。「深刻になると困るが」って何?「God Bless America」は犠牲者追悼の歌なの?
【以下引用:報知・芸能EXPRESSより】 演出の草野旦(あきら)さんは「深刻になると困るが(テロ被害は)避けて通れない」と、犠牲者追悼の歌「God Bless America」をささげる場面を用意
|