妄想暴走オタク日記
航海に連れ出したのは失敗だったのかもしれない、とコウムラは思った。
荒療治と分かってやった事だった。トクマの内なる人格は、初めてその存在を知った頃に比べて、どんどんと凶暴になっていった気がしたから。手遅れになる前に、と行動を起こした。どう接してやればいいのかなんて分からなかったから、連れ出して、突き放して、後はトクマ本人の気持ち次第だと。 それは、ある意味コウムラの逃げだったかも知れない。直接接するのが怖いから、そうやって突き放した振りをして。その実つかず離れず、側に置いた。コウムラ自身もどうしたいのか、正直分かっていなかったのかも知れない。 今、目の前のトクマはぐらぐらと揺れる目を彷徨わせて、ただ空を見る。そこに何があるのか、或いは何もないのかも知れない。薄っすらと笑みを浮かべたその顔は、何に対して微笑んでいるのか。幸せなのか、不幸せなのか、笑う事に意味はあるのか、それとも何もないのか。笑うトクマの顔にはけれど、何の表情も読めなくて、まるで壊れたオモチャを思い出させた。 幼い頃、よく遊んだオモチャ。コウムラはそれをとても気に入っていたのだけれど、ある日突然に壊れて動かなくなってしまった。いつものように動かないそれを、コウムラはとても残念に思ったけれど、壊れてしまったのなら仕方がないのだと、諦めて、忘れてしまった。 壊れたトクマも今、いつものようには動かない。座り込んで、ぼんやりと虚空を見上げる。その視界の中に入ってみても、とろりと虚ろな目は、コウムラを映さない。 「トクマ」 ぽつんと一回。呼びかけに、のろのろと反応を示したトクマがぎこちない動作で口を開ける。けれど出て来た言葉は不明瞭で、まるで意味を成さなかった。その、聞き慣れた声も。知っているようでまるで知らない。トクマでもない、もう一人でもない。ならば今、ここにいるトクマは一体何者なのだろうか。 「トクマ、」 覗き込むように顔を近づけてみる。至近距離で見たトクマが、僅かに微笑んだ気がした。 「……クマ、」 腕を伸ばしてその体ごと抱き留める。鼻先を掠めた緩いパーマの毛先と仄かなシャンプーの香りが、そこだけ妙にリアルなトクマを思い出させて、コウムラの胸を締め付ける。この、腕の中にある体は確かにトクマには違いないのに、この空虚な感じは何なのだろう。 「―――――してくれ」 搾り出すような声が出た。トクマの首筋に吸い込まれた声は、祈りにも似て、コウムラの内心を暴く。 泣いてトクマが戻って来る筈もないのに。 こんな事になるくらいなら、あの時一緒に泣いてやればよかったのだ。今更後悔をしても遅い。だからきっとこの涙は、その時流す筈だったものよりもっと切実で、もっと悲しい、絶望の。 「トクマを、返してくれ…」
その願いに、答えるものは何ひとつなかったけれど。
▼1:47
いや、すみません。夏の終わりにこんな話を書く筈ではありませんでした。(でも書いちゃった)
日付上は昨日ですか、千秋楽公演を見て参りました。 プレミアム公演(@横ちょ)は見ていないので、本当の意味での最後には付き合えなかったんですが、その辺りは御覧になった方の感想を楽しみにするとして(>声を大に!)。落ち着いた感想はもちろん、後々書こうとは思うんですが、今日、寝るまでにこれだけ書いておきたい!という楽公演。これ、断っておきますが冗談ではなく本気で書いてます↓
今回、実は初の1階席だったんですが(笑)ずっと上から見下ろす形だったので色んな意味で新鮮で。しかもちょうどどセンター位置だったので一幕最後の彷徨えるトクマ(笑)を思う様ガン見た訳です。昨日、Mさんに話を聞いてエェエー!と言いつつさんざ語ったんですが、終盤に来てまた芝居を変えてきたらしい雛さんは、今までただ恐怖に震える描写だったそのシーンで、笑い出したんですよね。それも、ここに来て微笑んでみた。最後のトクマさんは昴…リンタロウの独白に、初めはふらふらと歩きながら何度か人にぶつかり反転、両腕を抱き締めて、仰け反って空を見…、薄っすら笑うんですが、最初は自嘲的な感じで、それがじわじわと変化して遂には微笑むんですよ。その微笑む人が、Mさんの言葉を借りるなら「トクマちゃん、壊れちゃった」感満載で(笑)!あの場面で微笑むトクマは一体何を意味しているんだろう、と思えば笑い方ひとつでもくるくる変わって、それは結局、プロローグ的なあの場面で、二幕を予感させている、要するに白と黒が入り乱れている状態なのかなぁ、と思えば納得。で、今日はそんな壊れかけのトクマちゃんがリンタロウの「戻ることのない、旅に出る事が出来るのか」の問いかけに呼応して、一瞬で我に返るというか、笑みが消えて真顔になったんですよ。で、虚ろな白を垣間見せつつ、ぐるりと首が揺れて、斜め角度で停止。あれは、何だったのかなぁ、怯えとも畏れとも取れる、放心した顔だったんですが、その顔で固定したまま1階センターの我々目線ではこう、その瞬間にライトがピカーッと当たりまして、まるで後光のようにトクマを後ろから照らし出してですね、トクマの栗毛が反射して、肌も女優仕様で(笑)とにかくビックリするくらい
綺麗だったんですよ…!
いや、マジ!わたし雛さんを綺麗だとか思うことってほんっと少なくて、でもあまりの美しさに幕が下りた瞬間にSさんに「痛いこと言っていいですか…!」って言った(笑)。ちょっともう、あれを見れただけでも楽の恩恵を受けました。ありがとうございました。正直、一幕のそれに感動しすぎて二幕はそうでも…だったんですが(笑)そこらへんは明日以降にゆっくり書きたいと思います。っていうか楽に来てコレキヨ×トクマで終わるとは思ってなかったんだよなぁ…劇中一度も呼んでなかった(と思う)んだけど、アドリブで「トクマさん」とか呼ばれた日にゃぁ丸山…!的なねぇ。しかも言うに事欠いて「トクマさんはあんなに優秀なのに、ソウスケはダメですね」ってどうなの。でも二人の間に入りたそうなソウスケが、安ではなくソウスケのまま、ノミとカナヅチを手に目だけで訴えていたのがそれはもぅツボでした。(しかしコレキヨには「ソウスケにはまだ早い」と言われてしまうあたり)
そんなこんなで言い逃げっぽく本日は終了。
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