妄想暴走オタク日記


2006年10月24日(火) 顔いっぱいにふやける笑い顔、とか。

 「正味もう感想とかええから、不味かったら残しや」

 彼らしくないネガティブ発言と共に目の前に置かれたカルボナーラは、一見普通の見栄えをしていたから、安田はつい、油断をしてしまった。
 「大丈夫ですよ!いただきまー…」
 す、の声と同時に口の中に放り込んだそのパスタは、思い描いていた味と全然違ったから、安田は驚きとショックで動きを止めてしまう。吐き出す程ではないけれど飲み込むのも勇気がいるような、何とも言えない、丸山風に言えば「個性的な味」に対して固まったままの安田を見た村上は、ほら、やっぱり、という顔をした。
 「やから言うたやろ?食うてみたい言うたんはヤスやで?」
 俺のせいちゃうからな〜と言いながらも結果を予想していた村上は、諦めのような朗らかな笑い顔を浮かべている。「まぁ、せめてその一口くらいは吐かんと飲み込んでくれ」と言いながら立ち上がって安田の隣に回り込んでくる。その頃、やっと一口を飲み込んだ安田は、その気配を感じ、反応をした。
 「ちょ、待って」
 安田の目の前の皿を引こうとした村上の先回りをして、安田は両腕を伸ばして皿を抱える。そうする事で気持ち体が倒れて、まるで村上からカルボナーラを守るような体勢になった。
 「?何しとん、ヤス」
 「村上くんこそ、何するんですか」
 「俺はパスタを下げようとしとるんやん。もう食わんやろ?」
 悪かったなぁ、口直しに何か食うか?と先先と話を進めようとする村上を、安田はきっと見上げる。
 「食いますよ!」
 「は?」
 だから、食いますから触らんといて下さい!と宣言する安田は、ぽかんとする村上をよそに、フォークを握り直し、また一口を口にする。
 「…ちょお。待ちいや、ヤス」
 止める間もなくその後また一口と口にする安田は何だか必死の様相で。今度慌てたのは村上で、やっと我に帰ると安田の手を止めた。
 「無理せんでええって」
 「無理なんかしてません!」
 「いや、どー考えても無理しとるやろ!やってお前」
 涙目なっとるやん、と言われた安田は文字通り、涙で潤んだ目で村上を見上げていたから、村上は何だか気の毒なような満ち足りたような複雑な気持ちになる。そうやって今だカルボナーラを大事に腕の中に隠す安田は、宝物を必死で守る子どものようにも見えて。安田の気持ちは嬉しいけれど、そこまで無理をさせる言われもない。
 「気ィ遣わせたんなら悪かったわ。やけど今までさんざ不味い言われて来たし、今更凹んだりせぇへんから、大丈夫やで」
 出来るだけ優しい笑い方をしたつもりだったけれど、安田が見て優しく映ればいいと思った。安田のその気持ちだけで、報われたような気がしたから。けれど安田はじっと見た村上に対して、それとは違う事を言った。
 「ちゃいますよ。村上くんに悪いとかやなくて、俺が、全部食いたいんです」
 「何で?」
 意味が分からなかったから、村上は率直に聞いた。するとちょっと伏し目がちになった安田は、だって、と呟く。
 「村上くんが俺の為に作ってくれたのが嬉しかったから、残すんは勿体なくて」
 「おま…」
 村上は半ば呆れ半分で、言葉を失う。そんな安田の素直で真直ぐな気持ちが、くすぐったくて照れくさくて、笑おうとしてしわしわの顔になった。
 「分かった。ほんなら次、ちゃぁんと美味いカルボナーラを食わしたるから、それでええやろ?」
 言えばやっと笑った安田が、笑いながら涙を拭いた。


*


 「と、言う訳で亮。美味いカルボナーラの作り方を教えてくれ」
 「…はぁ?」
 頼む!と頭を下げた村上に、錦戸は困惑と不審の入り混じった視線を向けた。何を急に料理など、と言いながらも本当は、連日の騒ぎに我関せずの姿勢を取りながら、耳だけは傾けていた錦戸だった。遂に自分の所に回ってきた、と思えば悪い気はしない。しかも食わす目的ではなく、教えてくれ、と来たもんだ。
 「まぁ、料理上手なんは俺的に必須条件やし」
 「何か言うたか?」
 「いえ、何も。ええですよ、教えます」
 
 かくして渦中のカルボナーラ、6食目にしてその不味さの理由に迫る事になった。 


▼23:05


わー。安が一番書きたかった(ネタ的に)のに実際書いたらあれ?な感じになりましたよー…
大体がそうなんですけど、それ自体は気に入って、書きたい!気持ちを盛り上げすぎて書いた話って、出来たらあれ?な場合が多い気がします。自分の中で盛り上がりすぎちゃうんですかねー。想像以上には上手く書けないからだろうな。でもまぁ、これはこれでまぁいいです。そう思わないと先に進めません(笑)

昨今、とても好きなサイトさんがあったんですが、その方の書く雛の表現の何かしらあっと思わせる感じがすごく好きで。イメージは沸きやすいのに自分ではとても出来ない表現をされる方でした(過去形ではないんですが)。そういうのをすごく好きでありつつ羨ましいといつも思ってて、それに比べると自分はわたしの好きな雛さんという人を表現しきれていないなぁと思ってしまいます。でもまぁ、自分で満足してしまったらそれ以上書かなくてもよくなっちゃうし、そこは発展途上で頑張ろうかな、と思っておきますけども。

胸を透くような表現、というのに憧れます。
何にもない瞬間でも、そこだけとても美しく切り取れるような。そういう空間を描きたい、というのが常々思っている事かなぁ。



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