『たけぐせの随・弐』
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2005年04月16日(土) |
short storty 『石ころ』 |
人込みに向かって彼が投げた石ころは 誰にもぶつからなかった。 誰にも謝らず、誰にも咎められず、彼は歩き出した。
そよ風は、そのくせ痛く心を刺してくる。
散り舞う花びらが彼の頬に触れ、 ふと立ち止まる。
見通す道には散り落ちた花びらたちが広がっていた。 彼はそれを頼りに再び歩き出した。
人込みからやっとの思いで抜け出した彼女の足元に 何かがこつりとぶつかった。 当たり前のように拾い上げた手のひらには 小さな石ころがあった。
ふと顔をあげると、 見通す道には散り落ちた花びらたちが広がっていた。 彼女は石ころを握りしめた。
「誰だよ、投げたの?」
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