月のシズク
mamico



 静けさの秘密

いつもどことなく賑やかしい実家なのだが、なんだかとても静かに感じた。
ただよう空気にたくさん隙間があって、そこにぽわんとした空白があるかんじ。
なんだかのんびりしていたのですが、ふとみんなが気づいたこと。

「何かが足りない」
そして皆がいっせいにはたと気付いた。
「電話が鳴っていない」

私が帰ったのが金曜の深夜なのだが、その前夜はひどい雷雨が降ったそうだ。
30分から1時間くらい、「ピカッ、ごろごろごろごろ。ピカッ、ごろごろごろごろ」
が続いていたという。もしかして雷の影響で電話が故障してしまったのかも
しれない、と丸二日経ってから気付いた。必要な連絡は個々人の携帯電話に
かかってくるし、ネットも繋がっていたので、電話が故障しているなど
考えには全く及ばなかった。なにはともあれNTTに苦情を申し立てる。

暑い日曜の昼下がりに、NTTの名札を付けて緑色のユニフォームを着た、
頭の禿げたおじさんがやってきた。額に粒状の汗を浮かべながら、そそくさと
2階の親機をみてくれる。そしてとても困ったような顔をして
「すみません。この機種はもう修理できないのです」と言う。
確かに10年以上使ってきて、留守電機能も何もないシンプルな電話は
もう見かけなくなっていた。「他の子機電話とインターフォンもダメですね。
すみませんがそちらも買い換えて頂くことになります」

別に田舎の家が広いと自慢しているわけではないが、ウチには何故か
電話が5台もあった。部屋に備え付けのコード付き電話なので、
「人間が移動するのが面倒くさい」と次々と増設したのだ。
今では住人よりも電話の数が多くなっていた。
まったく、ものぐさというか、節操がないというか。。。

それが、超現代式ばりばりデジタル機能満載の機種になるという。
保留+転送機能をやっとマスターした祖母に、この手の操作は対応できるのか、
いちばん気がかり。

それにしても、このNTTのおじさん、雷の翌朝から夜もほとんど寝ずに
「500件近く」修理に行ったという。よほどお疲れらしく、「50件」と「500件」
を言い間違えているようだった。いや、彼にしてみれば「500件近く回った
くらいに、しんどい作業」だったのだろう。同情しちゃうな。

だって、疲労でろくすっぽ呂律(ろれつ)も回らない舌で「すみません」
を連発してるんだもん。電話の故障は君のせいじゃなくって、雷さんの
せいなのにさ。

とんだ災難を受けたのは、彼のようなNTTの修理工さんなのかもね。
だって、実家の面々は至って平然な顔で「あ、いいですよ。全部買い換えます」
とさらりと言ってたし。

電話の呼び出し音が聞こえないだけで、家の中はこんなにも
ひっそりとしてるんですね。私は別にぜんぜん不便さは感じなかったんだけど。




2001年07月02日(月)
前説 NEW! INDEX MAIL HOME


My追加