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■ 雪の降る街
東京に雪が降った。
空気が乾燥して、気温の低い東京では、雪は小さな粉になる。 肌を刺すようなつめたい空気の中、コートに白いものが落ちてきたときは ゴミや塵かと見まごうほどだった。それでも、東京の街に雪が降るのは、 ちょっとした非現実感があり、心愉しいものである。
私が生まれ育った北陸では、冬は心寂しいものだった。 来る日も来る日も曇天で、低い雪雲に抑圧された街は、暗い灰色だった。 水気をたっぷりと吸った分厚い雪が、隙間という隙間を埋め尽くした。 あの街に降る雪は、圧倒的な現実だった。逃げ場のない、つめたい現実。
ルクセンブルクにいる妹から写真が届いた。 彼女が住む部屋の窓辺を切り取った写真。ポプリ、キャンドル、ガラスの壜。 それに、額に入った私の写真が二枚と、クリスマスに送った和風のカードが 窓辺に飾られている。写真は、去年、恋人さんがふざけて撮ってくれたものだ。 横顔と、上半身を正面から撮ったもの。写真の中の私は、どこか遠くを見ていた。
そのあたたかな室内から見える外国の空は、おそらく夕方で、いまにも雪が 落ちてきそうな表情をしている。ガラスが区切る、ふたつの世界を見つめる。 行ったこともない街の、小さな窓辺に飾られた写真の中の私は、この空を どんな思いで眺めているのだろう。妹から送られた写真をみて、ふと、そう思った。
ところで、東京に降った雪。 翌朝のあたたかな日差しで、ひとつぶ残らず消えていました。 そのあっけない消え方が、私から、よけいに現実感を奪うのです。
2004年01月18日(日)
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