女の世紀を旅する
DiaryINDEX|past|will
| 2002年01月21日(月) |
時事検証 中国の光と影 |
【時事検証 中国の光と影】 2002年1月21日
★貧富の格差がドンドン拡大する社会主義体制の矛盾 ★2億人近い潜在的失業者の不満はいずれ爆発しよう ★地球規模で時代は変貌しつつある.共産党の独裁体制に未来はあるのか
●イスのない学校
中国西北部の青海省は,南はチベット自治区に接し、2、3千メートルの高原が広がる。その省東部にある少数民族・下隆回族の自治県の小学校を取材した日経記者の村山宏氏のレポートは興味深い。 採光の悪い暗い教室では、20人あまりの子供たちが立ったまま、教科書を手に持って声を上げている。「イスがないのですね」と村山記者が聞くと、「イスと机で170元(約2千5百円)はしますから,学校の予算がなくて購入できないのです。」 小学校の生徒数は125名、教室が狭いうえに教師は4人しかいない。午前と午後に分けて授業を繰り返している。しかし、これらの子供たちも恵まれた方だ。地域の学齢期の子どもは272人いるが、学校に通えるのはその半分以下なのである。2年生以下は10元(約150円)、3年生以上が25元(約375円)の学費を納める必要があるが、年収がなんと1000元(約1万5千円)程度で、この学費さえ払えない家庭が多いのだという。 「さっき、あなたが学校に入る前にたくさんの子どもたちに取り巻かれたでしょう。あの子らは学校に通わせてもらえない子どもたちなのです。学校のなかにいる子と一緒に遊ぼうとしていつも学校に集まってきます。授業を受けたくても受けられず、門の近くで遊んでいるのです。」 村山記者が車で乗り付けた時、校門の前で百人近い子供たちが歓声を上げて集まってきたが、校門をくぐった所で立ち止まってしまった、その子供たちの事である。
●貧困と教育不足の悪循環
中国の小中学校の運営資金は地元の行政機関が拠出している。経済発展から取り残された貧しい地域では、学校運営は苦しさを増すばかりだ。この小学校の厳校長は、まだ25歳。月収は500元(7千5百円)と村人に比べたら破格だが、北京、上海で働く教師の半分にも満たない。まだ独身で4畳半の狭い部屋に済む。壁には新聞紙を貼り付けて寒さを防いでいる。 一人の女性の先生が村山記者に耳打ちをした。「私は今年、まだ5ヶ月分しか給料をもらっていないのです。」9月のことである。こんな貧しさにもめげずに、厳校長は学期毎に家庭訪問をして、学費がなくて学校にこれなくなった子どもたちを通学させるよう親を説得して歩く。
村人3500人のうち、字の読めない人の割合は7割に達する。小学校から中学校に進学するのは、同年齢の子どもの10%ぐらい。県政府は家庭の現金収入を増やそうと豊かな地方への出稼ぎを奨励し、数百元の保証金まで与えているが、字も読めなければ出来る仕事も限られてしまう。貧しさと教育不足の悪循環の中で、厳校長らの奮闘は続いている。
●光の中国と影の中国
一方、上海などの豊かな沿海部では「貴族学校」がある。私立の小中高校で、高級な設備と一流の教師を揃えた進学校である。パソコンや音響機器を取りそろえ、外国語や情報関連の教育も充実している。修学旅行では日本など海外にまで出かけたりする。入学金と授業料は一括払いで、数万元(数十万円)から20数万元(3百数十万円)、沿海部の成金層の師弟を対象にしたビジネスである。 イスも満足にない授業料375円の学校にすら行けない子どもと、パソコン・海外修学旅行付きの3百数十万円の進学校に通う子ども。同じ国の中で、こんな両極端の光景が見られるのである。 日本が不況にあえいでいる中で、中国経済の華々しい躍進が報道され、それが日本人の自信喪失に輪をかけているが、躍進・中国というイメージは、豊かな沿海部のそれも光の当たっている所だけを見ているからである。わが国は世界でも珍しいほどに国内格差の少ない平等な「温室国家」であるが、その国内常識の色眼鏡をつけたまま、中国の光の部分だけを見ると、13億の民がそろって日本の高度成長時のような大発展をしつつあるように見えてしまう。 中国との政治的、経済的関係を考える場合に、この錯覚は危険である。光の部分と影の部分、そしてその間の矛盾・軋轢、この複雑なる隣人とつきあうには、こうした事実を知る必要がある。
●追いつめられる農民たちの窮状
中国は昨2001年末にWTO(世界貿易機関)に加盟したが、これによって、製造業の輸出が伸びる反面、国際競争力のない農業部門が深刻な打撃を受けるのは必至である。 1950年代末期、毛沢東が「大躍進」政策で農業の集団化(人民公社)を強引に押し進めた結果、数百万人とも言われる餓死者を出したが、1980年代に農民一人ひとりが農地を持って個人経営をすることで「やる気」を引き出し、農業生産高を向上させる政策を��小平が推進した。しかし8億6千万人の農村居住者が、1戸あたり0.4ヘクタール、日本の3分の1以下の土地にしがみついて、零細な農業を営んでいる。原始的な農法とあいまって、今や国内市場においても、オーストラリア米にかなわない、と言われる。すでに農村部の労働力4億9千万人のうち、25%にあたる1億2千万人が余剰と推計されている。 中国政府は小麦やトウモロコシなど主要農産物に輸入割当制を実施し、牛肉や果物など労働集約型の農産品も高率関税によって国内農家を保護してきたが、これらの保護政策が縮小、廃止された場合、970万人の農民が失業すると政府は予測しているが、その4倍との見方もある。 湖北省の武漢。市場に出入りする商人の荷物を竹竿で担いで、手間賃を貰う担ぎ屋がたむろしている。「こう同業者が多くちゃ商売はうまく行かない」と百数十キロ離れた農村から出てきた出稼ぎ農民は言う。「二人目を産んじゃいけねえんだけどよ、できちまってさ、罰金を2300元も払わされちまった。農業じゃ食えないから武漢に出てくるんだ」とはいっても、一日に10元(150円)ほど稼いでも、夕食3元、2段ベッドに4人寝る宿代が一日1元では、いくらも残らないとのこと。 食べていけない農民たちの怒りは、重税や役人の腐敗をきっかけに爆発する。2000年8月、江南省の省都 南昌の南の豊城県では、2万人の農民が腐敗役人の家を打ちこわし、農具を武器に武装警官と数日にわたって衝突した。公安部は、国内の抗議行動が98年は6万 件、99年が10万件と発表したが,WTO加盟による農産物市場開放がこの火に油をそそぐだろうことは間違いない。
●国有企業から放り出された失業者の大群
もう一つの影がある。国有企業の惨状だ。村山記者は荒れた砂漠の真ん中にある街の国有紡績工場を訪ねた。車で乗りつけると、6、7人の労働者に取り囲まれた。工場内で仕事もなく、手持ちぶさたの工員から格好の暇つぶしにされたらしい。数十台の紡績機のうち、動いているのはわずか一台。他の労働者たちが車座になって世間話をしている。 「1989年からずっと赤字で負債総額は7千万元以上になるよ。悪いのはソ連、東欧の体制崩壊だね。工場の輸出のほとんどが、あちら向けだったんですが、向こうさんが経済混乱で毛布を買ってくれなくなった。これには困りましたねえ。」 宣伝部の担当者はこう語った。89年からずっと赤字でも、生産品目も変えず、輸出先の開拓もせずに、いまだにソ連・東欧のせいにしている。経営者も労働者も無気力の固まりである。80年代に2千人以上いた工場は、400人を解雇した。
●国有企業から追い出されたら
中国の国有企業は、住宅、医療、教育、仕事がセットとなった生活共同体である。国有企業に雇われている限り、生活はまるごと面倒みてもらえる。まさに社会主義の理想であった。しかし、逆に国有企業から放り出されると、人々は職だけでなく、住居も医療サービスも、教育機会も失ってしまう。失業保険は月に300元(4500円)ほどの最低賃金分しか保障されず、支給期間も限定されている。 1999年の政府統計によれば、国有企業は都市労働力の41%を使いながら、工業生産高の28%しか生みだしていない。同じく政府統計では、国有企業で働く約9000万人の30%以上(2700万人以上)が自宅待機中であるというから凄い。 遼寧省の斜陽の鉄鋼地帯の町では、鉱山の閉鎖をきっかけに2000年2月、2万人の労働者が暴動を起こし,人民解放軍が出動して、ようやく秩序が回復されたという。
●中国の金融問題はいずれ世界最大の問題へ
中国最大の鞍山鉄鋼公司は、瀕死の国有企業の典型だ。1950年代のソ連の技術を使い、50万人もの退職者やレイオフ者の生活を支え、数百億円の負債を抱えている。こんな巨大国有企業がつぶれたら、深刻な経済的社会的混乱を起こすので、政府としても潰すわけに行かず,国有銀行からの融資を続けさせている。「融資を打ち切れば国有企業は倒産するだろうし、我々も共倒れです」とある銀行家は語る。 1999年末の中国の商業銀行の不良債権率は40%と推定されているが、最悪の予測では70%と見る向きもある。そのうち20%を回収しえたとしても、中国の銀行システムの回収不能債権額は4900百億ドル。中国全体の2000年のGDPが1兆ドルなので、その50%近い規模である。ちなみに日本の不良債権総額の推定は50〜60兆円から140兆円とばらついているが、500兆円を超すGDPの10%から30%未満である。 「専門家の多くにとって、中国の金融問題は世界の最重要課題のひとつであり、ことによると世界最大の問題かもしれない」とマサチューセッツ工科大学のドーンブッシュ教授は語っている。 99年1月に広東(カントン)国際信託投資公司(GITIC)は47億ドル(約5千億円)もの負債を抱えて倒産した。広東省直轄で政府の保障付きだから焦げ付くことはないと信じて融資していた外国の投資家はあえなく見捨てられた。貸し付けの3割は日本の銀行か らと見られている。
1999年4月、中国で第5位の国有交通銀行に対する取り付け騒ぎが河南省でおきた2000年6月には4大国有銀行のひとつ中国建設銀行に対しても、安徽省で取り付け騒ぎが起きている。預金保険のない中国では、人民が預金を守る方法はただ一つ、銀行に押しかける事だ。すでに破綻に瀕している中国の金融システムのどこかが綻びれば、中国全土で取り付け騒ぎが広がり、それを抑えるためには武力鎮圧か、大急ぎで紙幣を刷って超インフレを招くしかない。事態によっては,共産党政権の終焉につながりかねないのだ。
●宗教勢力の弾圧を進める当局
99年4月25日、突如として2万人の法輪功会員が天安門前から中国共産党幹部の住む中南海を埋め尽くした。法輪功はやさしい基本動作で、血行を促し心身を健やかにする気功術の一派。病気になっても医者にかかれない一般大衆の間にまたたく間に広がったと言われている。 政府は中国共産党独裁を脅かしかねない「邪教」として、94年から弾圧してきた。それに対する平和的な抗議を行ったのが、この2万人の集会だった。あわてふためいた江沢民は取り締まり強化を命じ、以後、ビラ撒きだけでも法輪功会員は逮捕され、これまで獄中での死亡74名から120名、労働改造所に送り込まれた者2万人という。もう一つの気功集団「中功」は会員4000万とされており、こちらも500人が逮捕されている。 中国の歴史では黄巾の乱、紅巾の乱,白蓮教徒の乱、太平天国の乱、義和団の乱など、追いつめられた民衆が宗教に救いを求め、そこから蜂起を起こして、やがては支配王朝を倒すか、その衰退の端緒を作るというメカニズムが繰り返されてきた。法輪功はこの再現かと、政府が怯えるのも歴史的背景があってのことだ。 農村や国営企業から放り出された失業者、不完全労働者はすでに2億人を超えるというから事態は深刻だ。国内をさすらう出稼ぎ労働者は7千万から1億3千万人。WTO加盟の衝撃でこの大群衆がいつ暴徒に化けるか分からない。それは金融システムの破綻を表面化させ、全国各地での取り付け騒ぎに飛び火するかもしれない。そうなれば弾圧と搾取に苦しむチベット(ラマ教徒)や新疆ウイグル自治区(イスラム教徒)の民衆も蜂起するかもしれない。いよいよ中国の社会主義市場経済も破綻するか否かの正念場をむかえよう。
日本では,躍進を続ける中国経済という光の部分にだけに関心が向きがちだが,実は大変危機的な社会状況が存していることに関心を払いたい。
|