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2008年10月06日(月) ★戦後最大の金融危機が民主党オバマ大統領候補に追い風


★戦後最大の金融危機が民主党オバマ大統領候補に追い風―ただし人種問題が課題―

                        2008年10月4日 

●持田 直武 (もちだ・なおたけ)のリポートから 
【履歴】
国際問題評論家
1935年10月埼玉県生まれ。東京大学仏文学科卒業、新聞研究所研修
科修了。
1960年NHK入局、横浜放送局を経て外信部(1964年)、ベトナム特
派員(1968年)、メキシコ特派員(1969年)、ソウル特派員(1975年)、
ニューヨーク特派員(1984年)、ワシントン支局長(1985年)、解説委
員(1987年)、解説主幹(1990年)、部外解説委員(1995年)を経て、
2000年4月から2006年3月まで東洋学園大学教授。マスメディア論、
国際関係論などの講座を持つ。



2008年10月4日 持田直武


金融危機が共和党マケイン候補の足場を崩している。金融安定化法は成立したが、銀行の貸し渋りが続き、カリフォルニア州政府が70億ドルの資金援助を連邦財務省に要請するなど危機は去らない。民主党は、危機はブッシュ政権8年の自由放任政策が原因と批判。マケイン候補もこの批判の矛先を避けることはできない。

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・オクトーバー・サプライズの第一波、二派、三派も
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 投票日前の10月、選挙結果に影響する異変が起きることをオクトーバー・サプライズと言うが、今年はこのサプライズが9月から始まった。しかも、これは第一波。11月4日の投票日までに第二波、いや第三波さえ来るかもしれない。金融危機はそんな予感さえ持たせる不気味な広がりを見せている。2日のニューヨーク・タイムズは「われ等に希望を」という社説を掲載。サブプライム・ローンで住宅を購入した600万人余りが今年から来年にかけて破産すると警告した。

 危機救済のための金融安定化法は難産の末、3日下院を通過。ブッシュ大統領が署名して発効した。しかし、同法は危機の発端となったサブプライム・ローンの利用者を救済の対象にしていない。このため、上記ニューヨーク・タイムズによれば、今後同ローン利用者の約600万人が返済不能になる恐れがある。また、律儀に返済を続けている利用者でも、住宅価格が下落して、銀行からの借入額が制限される結果、さらに数百万人が住宅を手放さざるを得なくなるという。

 危機の影響はこれだけではない。銀行が資金不足で、企業に対する貸し渋りが広がっている。カリフォルニア州政府も銀行借り入れが出来なくなり、シュワルツエネガー知事が2日ポールソン財務長官に対し、連邦資金から70億ドルの緊急支援を要請した。同州は人口3,700万人、州予算1,430億ドルだが、手持ち資金は10月一杯で底を衝くという。州が銀行の貸し渋りを理由に連邦資金を要請するのは初めてだが、資金繰りの苦しい州は多く、連邦資金の要請は増えるとの見方もある。

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・共和党マケイン候補には苦しい展開
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 今回の金融危機が100年に一度あるかないかの大事件であることは間違いない。金融安定化法もそれに対応して7,000億ドルという1929年の大恐慌以来の大規模な公的資金を投入する。当然、危機の発生を阻めなかったブッシュ政権に対する責任追及も避けられない。ペロシ下院議長(民主党)は9月29日の下院本会議の演説で、この7,000億ドルは「ブッシュ政権が規律を無視し、監視機構を軽視して規制緩和を続けた自由放任主義の結果だ」と糾弾した。

 また、オバマ候補も10月1日上院の演説で「今は金融危機の火を消すことが先決だが、いずれ火付け役を罰する時が来る」と主張した。マケイン候補にとって状況は厳しい展開となった。同候補はかねてから一匹狼を自称、ブッシュ政権に距離を置く姿勢をとってきた。しかし、世論は必ずしもそう思っていない。CNNの9月22日の調査によれば、マケイン候補が当選すれば、「ブッシュ大統領の政策を引き継ぐ」と考えている有権者が57%に上った。

 確かに、マケイン候補はブッシュ大統領と同様、市場の自由を重視する政策を主張している。両者とも、政府が市場に介入することを嫌う。7,000億ドルの公的資金を投入する金融安定化法にも、両者は基本的には反対だ。共和党保守派には、この立場の議員が多い。しかし、ブッシュ大統領はポールソン財務長官に指示して7,000億ドルの金融安定化法案を作成した。危機拡大を防ぐため、やむなく市場に介入すると説明したが、共和党保守派の中には裏切られたとの思いが強い。

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・マケイン不況の中心地ミシガン州から撤退
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 マケイン候補は当初は金融安定化法案に反対する側かと思われた。同候補は政府の市場介入に反対、ウオール・ストリートの金融界指導者が高給を取ることにも強く反対している。ところが、そのウオール・ストリート出身の銀行家ポールソン財務長官が作成した7,000億ドルの公的資金投入を支持、ブッシュ政権の議会多数派工作にも加わった。共和党保守派内には、資金投入を決めたブッシュ大統領に加え、マケイン候補にも裏切られたとの思いが残ったのは間違いない。

 マケイン候補と共和党保守派の間の溝が深まった。同候補がペイリン・アラスカ州知事を副大統領候補に選択した時、保守派は諸手を挙げて支持した。同知事が妊娠中絶反対など保守派の信念の強固な支持者だからだ。しかし、最近はこの雰囲気も消えつつある。2日発表のワシントン・ポストの世論調査によれば、この変化を反映して有権者の10人中6人が同知事は副大統領として経験不足と考え、3人中1人は同知事と組むマケイン候補には投票しないと答えたという。

 この状況下の3日、マケイン候補はミシガン州での運動を諦め、同州から撤退すると発表した。同州で、共和党大統領候補は過去20年間勝ったことがなかった。同州は最近の不況に最も苦しむ米自動車産業の中心地。今回も、オバマ候補が圧倒的に有利で、マケイン候補は戦線縮小を余儀なくされた。オクトーバー・サプライズの第一波、金融危機がマケイン候補に与えた最初の賦課だ。第二波、第三派があるかどうか、わからないが、このままではオバマ候補が確実に有利である。


●2008年9月28日 持田直武


金融危機が深刻化、米国民の関心は経済問題に移った。テロの脅威より、失業の不安がより身近な問題となったのだ。安全保障に強いと評価されたマケイン候補の支持率が落ち、経済に強いというオバマ候補が浮上した。投票日まで残す所5週間、黒人大統領が誕生する期待は高いが、同時に黒人というだけで6%の得票が減るとの分析もあり、予断は許さない。


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・裏目になったマケインの賭け
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 マケイン候補は自らを「Maverick」 と称して憚らない。日本のメディアはこれを一匹狼と訳しているが、本来の意味は「はぐれ牛」だ。所有者の焼き印もなく、母牛からも離れて一匹で生きる牛である。行動が、出たとこ勝負になり、賭けになるのは止むを得ないのかも知れない。共和党大統領候補になっても、このマケインの性癖は変わるはずもない。最近の金融危機でも、同候補はこの性癖を遺憾なく露呈、下降気味の支持率にさらに拍車を掛けることになった。

 マケイン候補が大統領候補として金融危機対策に動くのは当然だ。同危機が1929年の大恐慌以来の世界的な混乱を起こす恐れがある以上、なお更である。しかし、同候補が取った行動には疑問があった。ブッシュ政権と議会が危機回避の金融安定化法案を協議中の24日、マケイン候補は突如選挙戦の中断を宣言した。そして、26日の大統領候補の討論会を延期し、両党の大統領候補がホワイトハウスでブッシュ大統領と危機回避策を協議するよう提案した。

 選挙より危機回避が優先するというのが、提案の理由だった。マケイン候補が危機回避のリーダーシップを発揮したとして選挙戦を有利にする狙いがあるのも明らかだった。一方、ブッシュ大統領は25日この提案を受け入れ、マケイン、オバマ両候補と議会指導者を招いて協議した。だが、結果は最悪だった。協議は、下院共和党指導者が金融安定化法案そのものに反対して決裂。リーダーシップ発揮の評価を狙ったマケイン候補の賭けは裏目に出た。


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・経済問題ではオバマ候補の評価が上
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 マケイン候補がこんな賭けに出たのは経済問題に弱いという評価を克服する狙いからだ。ワシントン・ポストとABCニュースが24日に発表した世論調査によれば、有権者の50%が大統領選挙にあたって経済問題、中でも職の安定を最優先に考えると答えている。そして、経済問題に関する支持率は、オバマ候補が53%で、マケイン候補の39%を大きくリードした。マケイン候補としては、経済分野でもリーダーシップを発揮できることを示して、この傾向に歯止めをかけようとしたのだ。

 ところが、マケイン候補が提案したホワイトハウスの協議で下院共和党指導部が叛旗を翻し、同候補の狙いははずれた。金融安定化法案は金融機関の救済に7000億ドルの公的資金を使う。下院共和党はこの資金投入に反対した。下院も11月4日の大統領選挙と同時に改選を迎えるが、選挙区では共和党の草の根支持者が税金で金融機関を救済することに反対だ。下院共和党指導部はこれを無視できない。結局、マケイン候補もこの問題の解決策はなく、リーダーシップも発揮できかった。

 マケイン候補はこれまでも選挙戦で幾つかの賭けをした。副大統領候補にペイリン女史を選んだのもその1つだ。同候補は全国的には無名だったが、保守的信念と実践が受け、選挙の顔になった。9月初めの共和党大会以降、マケイン候補の支持率上昇に貢献した。しかし、最近は政治経験や国際知識の不足など欠点も表面化、保守派のコラムニスト、ジョージ・ウィル氏など共和党の有力支持者が副大統領候補辞退を勧告している。ここでもマケイン候補の賭けが裏目に出ている。


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・オバマ候補の課題は人種問題
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 金融危機が深まるのに並行して、大統領選挙にも影響が現れている。上記のワシントン・ポストとABCの調査によれば、経済情勢が良いと考えている有権者は9%。この数字が一桁になったのは、1992年米国が冷戦後の産業転換期で、街に失業者があふれた時以来のことだ。また、米国が正しい方向に進んでいる考える有権者は14%。これは1973年のウオーターゲート事件以来の低さである。この2回とも、その後の選挙で共和党政権が敗北、民主党政権が誕生した。

 今回も、民主党オバマ政権が誕生する環境は十分ということになる。しかし、これまではオバマ候補はこの環境にふさわしい支持を得ていないという不満が民主党内には多かった。上記ワシントン・ポストとABCニュースはオバマ候補が今回の調査で初めて支持率52%、支持率43%のマケイン候補に9%と明確な差を付けた点を評価、大統領選挙の形が固まってきたとの結論を出した。このまま、オバマ候補が逃げ切る可能性があるとみているのだ。

 これ対し、AP通信は人種問題の調査結果を基に予断を許さないと分析している。それによれば、白人有権者の相当数が黒人に対しネガティブな感情を捨てていないこと。白人と黒人は人種差別そのものについても見方が違うことなどを指摘。オバマ候補は黒人であることで、大統領への道はより厳しく、差別が原因で得票は6%のマイナスを見込まなければならないとの結論を出した。前回選挙で、ブッシュ大統領と民主党ケリー候補の得票差が2.5%だったのをみれば、この6%が如何に重いかが分かる。


カルメンチャキ |MAIL

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