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「槞梛俚庵(るなりあむ)


時折綴

2006年01月15日(日) 眇の魚 〜蟲師〜

今夜の「蟲師」は、「眇の魚(すがめのうお)」がOAされた。
熱が38度5分もあったのに、しっかり午前4時に起きて観てしまった。

主人公のギンコが、何故「ギンコ」と呼ばれるようになったのかがわかるお話。
とても哀しいのだけれど、でもとても温かさを感じるお話。
わたしが一番泣いたお話。

思い描いていた通り、物悲しく美しい映像で―――。

オープニングに入る前に描かれた1ショットは、少年を包み込む闇を意識させ
そしてこのお話のすべてを物語っていて、演出も素晴らしい出来だった。

少年の名はヨキ。
母親と一緒に旅をしながら商いをしていたけれど、土砂崩れに遭い、母を亡くしてしまった。

怪我をして彷徨っていた彼を助けたのは、隻眼の女性だった。
彼女の名はヌイ。
白銀の髪、その残った片方の瞳は、この世の青とは思えないほど深く澄んで。

不思議な光と闇をたたえる湖の畔に独り住まい、行方知れずになった夫と子を捜していた。
彼女も蟲師をしていた。

湖に棲む魚は、みんな隻眼で白銀色をしていた。
蟲の放つ光を見過ぎたから、片目を失くしたのだという。
その魚が残った目を失う時、闇の存在にのまれ同化すると謂われている。

彼女はヨキを突き放すようにしながらも、その物言いは温かで、二人の心は静かに寄り添っていたんだと思う。
彼女はヨキに子を感じ、彼はヌイに母を感じていたんだと思う。

やがて二人に別れが訪れる―――。
湖に棲む常闇「銀蟲(ギンコ)」の目覚める夜に。

ヌイが闇と同化しながらも、それでも少年を導こうとした姿に涙が止まらなかった。
最期までその手を離そうとしなかった彼の姿にも。

最初から終わりまで、静寂に満ちたお話。
それなのに心を激しく揺さぶる。

闇の中を彷徨い歩いていて、月も星も見えなくなったら、それは「銀蟲」が傍へ来ている証拠。
自分が誰かもわからなくなったら、何でも良いから、最初に思いついたものを言えばいい。
でもそれが以前の自分の名前でなかったら、その時の記憶はすべて無くなってしまうけれど。

幾夜も、幾闇も彷徨い歩いた彼も、すべてを失っていた…。
だから彼の中に残っていた名前を言ってみた。

「ギンコ」

彼はそれまでのことを、みんな忘れてしまったかも知れない。
でもきっと、白銀に染まった髪と、闇にくれてやった片方の目の痕を見るたびに
こころの中にわずかに残った、ヌイと過ごした日の記憶が、彼を温めてくれるんじゃないか…
そう思えてならない。

少年はこれから先、蟲師のギンコとして生きて行く。

放送が終わってからも、しばらく涙が零れ続けた。
熱のせいじゃなく―――。


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冰月まひな [MAIL] [HOMEPAGE]