-殻-
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いい夢を見るなんて、今までの人生で数えるほどしかないのに。
そんなに僕は君を欲しがっているんだろうか。 はっきりした場面は、僕の夢には出てこない。 僕が普段認識している風景や人の印象が、そのまま見える。 あれは多分、そう、来週出張で一緒に行くはずの、新宿の街だな。 たぶん西側の、どこかの横断歩道だった。 僕等はスーツ姿で、君は僕の左側を、寄り添うようにして歩いている。 僕が左肩越しにちょっと見下ろすように君の顔を見る。 君はいつものように、ちょっと視線を外し気味に呟く。 「例えば、しんくんと結婚とか・・・。」 みたいなことを言っていたはずだ。 (僕の夢の中では言葉すらイメージに過ぎないので、言語化できない。) 僕はあまりにも望んでいたことを君が口にするので驚きながらも、 どこかそれが当然でもあるかのように装って君に微笑む。 「俺は全然構わないよ。むしろ嬉しい。」 お互いに、まるでとっくに分かりきっていたかのように微笑み合って、 僕等は横断歩道を渡って行った。 目覚めると、そこは新宿でもなんでもなく、狭い寮の天井が見えた。 夢に落胆することは僕には珍しい。 いい夢、なんてものはまず見ないから。 いつも、夢から覚めたことに安心して、それで現実を止揚している。 なのにこんな夢を見てしまった。 僕の中に結婚願望はあったんだろうか。 それが、何故君だったんだろう。 そこにいるべき相手は、社会的には君じゃいけないんだけど。 一番近いところにいるはずのひとは、夢に出てこない。 何故君だったのか? 現実にはおそらく、決してありえないことだ。 そこまで僕は君を求めているのか。 おかしいのは、性的な夢じゃなく、「結婚」の話をしたことだ。 僕は自分では、君の身体を求めているだけだと思っていた。 そう思い込もうとしていた。 それで解決すると思ってたんだ。 なのに、なんだ、この夢は。 ちょっと待て。冷静になれ。落ち着いて考えろ。 僕は君に何を求めている? 夢でそんなに優しく笑われると、現実はつらくなるよ。 僕の悪夢癖は、現実の毎日を守るためにあるのに。 僕が見たい笑顔で微笑む君は、夢に出てきちゃいけないんだよ。 頼むから、もうこんな夢は見せないでよ。 僕にとっての期待は、麻薬なんだ。 溺れてしまうんだ。現実を見失うくらいに。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |