-殻-
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僕は困ったことに、その事実を知ったときには真剣に目眩がした。
もう思い出せないくらい久しぶりのその感覚。 それでも、そんな動揺の度合いに関わらず、比較的冷静に対処できたと思う。 変に顔が引き攣ったり、チックも出なかったし。 それなりに自分を誤魔化す術は身に着いたのかな。 君が選んだことに、僕は何も言う権利はない。 例えそれが間違いであることが分かっていたとしても。 事実と真実は違うし、結果はいつも正しいものだ。 そう思っていなければ、生きてはいけないよね。 君は間違っていないよ。 僕は、決して君が正しいとは言いたくなかった。 そうして言葉を濁して、いかに君が大切だったか、 君を失うことがどれほどの損失かを、 婉曲的に語るしか愛情を示す術を知らなかった。 いつしか話題は逸れて、 君の幸せは手の届かない現実として、 やがて必ず来る事実として、 僕等の間に横たわって身動ぎを止めた。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |