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2005年05月25日(水)


■「しかたのない水」井上荒野
久しぶりに小説を読みきりました。北回帰線を中断していることを前に書いた覚えがあるのですが、今は佐藤亜紀の「天使」を中断していたりして。面白いんだけど、なぜか進まない…、と佐藤さんの本はいつもこんな感じ。だいたい半分以上読んでなお、主人公の名前すら未だにうろ覚えだし。第一次世界大戦の話なんだけど、ええとええと、そういえば主人公はどこの国の人なのだろう…。と、佐藤さんの本はいつもこんな感じです。でも面白いです。それで今回の本を読んでようやく気づいたのは、最近では珍しいくらいに本気で文学で耽美をやっている人だなと。文学は詳しくないのでえらそうなことはいえないのですが、官能小説ではなくって、本当に美を追求している感じがします。

で、話がそれましたが、井上荒野さんは井上光晴の娘さんなんだそうで、ほうほうと思っていたら、金子光晴と間違えていました。作家もどことなく家業のような雰囲気があるような気がします。

内容はフィットネスクラブを基点として、そこで交錯する人びとのお話。連作です。最近連作をよく読むようになったのですが、好みの問題ではなくて、最近の純文学よりのセレクトをあえてしているから、ということになるみたいです。以前はエンターテイメントものばかり読んでいたので知らなかったのですけど、純文学というジャンルになると、文芸誌に連載したものを単行本にして出すという形式が実に多い。連作になると読みやすくてどれも悪くはないんですが、できれば短編集か長編として読みたいです。

この本は、群像劇になっているので、それぞれ別の主人公が登場し、スポーツクラブでのお互いの印象と、それぞれが考えていることのずれが、面白く、怖く、そして切なく描かれていました。あさましいことを考えたり、ダメダメだったりするんですが、読み終えて思ったのは結構みんながんばって生きているよなあと。特別なことが描かれているようで、でも普通のことかもしれないと思うような、なんとも不思議な感触の作品でした。