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2008年11月27日(木)


■アンの娘リラ(読み途中)
アンブックス最終巻はセルビア皇太子殺害のニュースから始まる。アンの末娘リラは、典型的な末っ子気質で、陽気で気が強くて、自尊心が強く気概があって。。ちょっとおばかさんな感じで、箸が転がっても笑ってしまうようなお年頃。早く大人になりたくて、ものすごく楽しみにしていたパーティ(いわゆる社交界デビューのようなものか)にようやく参加が叶って夢のような時間を過ごすのだが、途中で開戦のニュースが飛び込んでくる。

カナダは徴兵はなかったようだが、志願兵を募っていて、リラの兄弟や知り合いがどんどん入隊していってしまう。勇んで長男は出かけていったけれど、心優しい次男のウォルターは、自分が殺すことになる相手のことを考えてしまう。それでもやっぱり行かないわけにはいかないだろうと、リラは思い、アンも読者である我々も心のどこかで感じている。どちらに転んでも、強すぎる感受性は自分を殺すことになる。志願者のみなどといっても、本当は選択の余地などない。

不平を言わず役割をこなすリラに対して、アンは誇らしく思いながらも、少女らしい時間をほとんど持てないまま大人になってしまうのだろうかと、哀しみを感じる場面がある。冒頭のリラがあまりに天真爛漫だったため、リラだけでなく、あらゆる人々が失ってしまった時間が重い。われわれは毎日3度の食事を取り、大いに笑い、安らかに眠る、そのことに対して、思い悩む必要などないはずだ。電車の中で、読み進められなくなってしまって、わたしはしばらく本を閉じた。

たとえば家政婦スーザンの信念を曲げない態度も立派なのだけど(ブライス家の人々は彼女によって本当に救われていると思う)、リラの感受性と想像力の豊かさ、それを支えるバランスのよさと強度には感服する。しかしそれもこれも、ただ笑って過ごせるはずだった少女期と引き換えにして得たものなのである。