日刊@でんきねこ
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2002年11月04日(月) |
読書感想文:晴子情歌(高村薫) |
高村薫の作品だから、と言う以外に地元の野辺地が舞台の話だと聞いたので、読んでみました。 高村薫と言えば、もともと主人公と、主人公に影響を与えているもうひとりの生き様や思考の中身を、かなり硬い(難しい)単語で延々と書き綴るタイプの作家で、いままではそれが犯罪や事件に関係あるような、または巻き込まれて行くような主人公でしたが、今回のちょっと違う感じです。 もっとも、戦争や、安保闘争や、三井三池炭坑といった、社会的な犯罪といえるような事柄も深く関わっていますが。「社会の暗い部分」という形では共通しているのかも。 今回は本当に、「晴子」という一人の女性の生き方と、その息子の現在の有り様(ありよう。ありさまじゃないよ)が、ただ淡々と描かれているような気がします。ちょっとジャンル分けが難しいかも。面白いと言うよりは、非常に考えさせられる作品でした。 ただ、野辺地の地元の人(年寄り)達がこれ読んで怒らなきゃ良いけど…(あんまり明るい話じゃないからねぇ。ちょっと心配)
ちなみに。 作中に出てくる「野辺地」の地名や風俗は、正しくそのまま使われています。カクタマ、カクジュウなどといった屋号もほぼそのまま。舞台となっている「福澤」だけは架空の家で、おそらく「野坂(ウロコマル)」と「伊藤(カクタマ)」を足して作られたものでしょう。(野坂は「サンカクマル」と書かれていますが、本当は「ウロコマル」といいます) 奥付をみると、協力したのはカクタマさんのようです。それですごく良い人に描かれてるのかも(笑) 方言もかなり正確に書かれていて驚きました。無理にルビや注釈をふらないかわりに、他の地方の人が読んでギリギリニュアンスが伝わるように書かれていて、さすがです。ごくたまに南部弁と津軽弁と北海道弁のいいまわしが取り違っているようなのは、まあやむを得ないかな。
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