蛍桜

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一生すれ違うことさえできない

冷たく凍った空気の中で、
君の足音がゆっくりと聞こえるような気がした

コンクリートの上に丁寧に置かれる大きな靴と
まっすぐに前を見据える君の瞳
僕を見つめているのか、
その先を見つめているのか、
その足取りは重いのか、
軽やかなのか、

何も、分からなかった

君が目指していたものはなんだった?

いつまで経っても、僕は
君の目指しているものを、一緒に目指してあげることが出来なかった

君が目指したいものを見つけてあげることも出来なかった


君は確かに歩いていて
確かにこっちのほうを見ているのに
いつまで経っても、君が近づいてくることはない
道がどんどんと遠ざかっているのか
君がただそこできれいな足踏みをしているだけなのか
分からなかったけれど
その姿がなんだか綺麗で
君が踏み出す一歩を、ずっと見ていたんだ

気がつけばいつのまにか
君の靴紐は解けていて
まっすぐ前を見据えていたその瞳にも
陰りが見えるようになった

それでも僕は、
今か今かと、君が辿りつくのを待ちわびた
たとえ僕の傍へ辿りついたとしても
そのまま通りすぎてしまう可能性もあるわけだけど
それでも僕は待っていた

もし、本当に、そのコンクリートで出来た道路が
動いていたとして、君が前へ進めなかったとしても
もし、本当に、君が前に進むのを怖がって
その場できれいな足踏みをしているだけだとしても

僕は何も、気づけなかった


迎えに行けばよかったのに、なんて言われても
僕が迎えに行くことを望んでいるかさえ分からなかった

もう、君の笑顔が思い出せない



気がつけば、君は、道と共に消えていた


だけど僕は、その場で立ったまま
暗闇を眺めていて

まっすぐに前を見据えていた君の瞳が
その暗闇の中に見える気がして
心の何処かに、ずっと、引っかかっていた
ずっと、残っていた

いつまで経っても横に並べない僕らは
いや、僕は、
勝手にお互いの絆を信じていたけれど

もう、分からない



何も分からないけど、結果は残った
その結果に基づいた、今、がある





最近、また一つ選択肢が増えた


僕が後退りをして、後ろへ逃げていたんじゃないかなって

僕の中の時計だけが、いつも後ろ回りなんじゃないか、って




もし、その仮定が当たっていたら、
僕は今もそのまま、壊れた時計を背負っている



コツ、コツ、

凍えた空気で君の足音


チク、チク、

湿った心で後ろ向きの時計



出てくるのは、涙しかない


2010年12月09日(木)

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