蛍桜 |
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誰も犠牲にしないように |
いつだったか、 仕事帰りに5匹の子猫を発見した 白や茶色や黒が混ざった子たちで 三毛猫のお母さんが近くに寄り添っていた だけど一匹だけ、お母さんから少し離れたところにいて ぴーぴーとずっと泣いていた お母さんはその泣き声が聞こえるはずなのに 他の子猫たちを舐め続けている 他の子たちはしっかりと目が開いていて 無邪気に遊んで転がっていた だけど、泣いているその子は、目が開いていなくて 目ヤニで顔がぐちゃぐちゃになっていた おかあさん、おかあさん、 目が見えないから小さい手で ちょこちょこと歩きながら泣く お母さんは振り向かない それどころか、その子は歩くたびに お母さんからどんどんと離れている きっと、ヤニで鼻もダメになってるんだろう お母さんが歩いて、その子の横を通った 踏みながら通って行った お母さんはその子のことを見捨てているように見えた そしてまた、離れていく 助けなきゃ、って思った 病院に連れていかなくちゃ 柵に手をかけた でも、それってどうなの? ふと、戸惑ってしまった 子猫を人間が触り、病院へ連れて行き、 人間と病院の匂いをつけてしまうのが正しいのか? 匂いが変われば母親は自分の子供が分からなくなると言う そうなった場合、私はあの子を飼ってあげられないし ましてや、保護しておくことも出来ない せっかくお母さんが居るのに お母さんが居ない生活に引きずり込むのもやだ 幸い、この地区は野良猫に寛容で 追いだそうとする人もいなければ、餌をあげる人もいる 目の前の「かわいそう」だけで私が行動することが 本当にあの子にとって幸せなのか 分からなくなった 「無責任」だけど行動すべきなのかな 放っておいたら死んじゃうかもしれない 正解は、どれ? とりあえず家に帰って 周りの皆に事情を話して 猫を飼える人を募った 猫を飼える人さえ現れれば 病院に連れて行って、 お母さんと合流出来なかったとしても 最悪、どうにかなるから でも、そう上手くはいかなくて、 誰も猫を飼ってくれるとは言わなかった 保護もされてない、 病気をもっているかもしれない、 そんな猫をほしがってくれる人はいなかった 私は、まるで保健所でたくさんの猫たちが殺されている事実に 背を向けるのと同じようにその場を避けるようになった どうしようもできないことなんだ、と 目を逸らし続けて数ヵ月後、 そっと、その場を訪れてみた あの時の子猫たちはみんな少しだけ大きくなっていた お父さんらしき猫も近くに居て 固まって寝ていたり、遊びまわっていたり、 そこにあるのは 平和 だった あの子猫 あの子がこの中に入ってるのか分からない だけど、あの子と同じ茶トラの子が居た 今、私は、 その子があの子でありますように、と 都合のいい解釈をして また毎日その場に訪れるようになった はやく、はやく、力がほしい |
2011年03月01日(火) |
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