第71回・東京優駿(日本ダービー)観戦記 - 2004年05月30日(日) 今日のダービーは、僕にとってはいいレースだった。 とりあえず強い馬が強い競馬をしたのだし、馬券も当たった。 それも、馬券を買う直前に日刊スポーツの見出しでハーツクライの名前を見つけ、お母さん(ちなみに、ハーツクライの父親はサンデーサイレンス)のアイリッシュダンスの父親がトニービンだったので、「やっぱり府中はトニービンだよな」と買い足した馬券が当たってくれたのだから、気分が悪いはずもないのだが(しかも、イキオイでけっこうな金額をハーツクライからキングカメハメハとハイヤーゲームに流していたので)。 それにしても、競馬というのは残酷なものだと思う。先週はダンスインザムードの「無敗のオークス馬」という夢が破れたわけだし、今週はコスモバルクの「初の地方馬のダービー制覇」という夢が破れた。 冷静に考えれば、先週のダンスインザムードの一番人気は当然としても、桜花賞から一気に800mも距離が伸びることや3歳牝馬の調整の難しさを考えれば、あれだけ一本被りになるのは「実力以上に偏ったオッズ」であり、賭ける対象としては「ハイリスク・ローリターン」ではあったのだ。 それを理解しながら、ダンスインザムードを買ってしまった僕は「負け組」だったわけだが。 コスモバルクについては、皐月賞の時点で「この馬にチャンスがあるとすれば、2000mの皐月賞だろう」と思っていた。行きたがるところのある馬だし、プリンスリーギフトのクロスと母父トウショウボーイからすれば、早い時期で距離が短いほうが有利なのではないか、と感じていたし。 しかしながら、皐月賞でスローペースのなかみんな最後は脚色が同じになってしまっているのに1頭だけ猛然と追い上げてきたバルクの脚は、「ダービーこそ!」というようなイメージを増幅してしまった面もある。 そして、あの皐月賞の結果からすると「要するに最後の直線での位置取りの差だけで、着順は必ずしも能力を反映していない」ということも言えたのだと思う。 それにしても、今日はあんなにマイネルマクロスがキッチリ逃げてくれるとは意外だった。皐月賞は逃げられず、おかげで超スローになって前残りの競馬になってしまったわけだが、僕は今回もあんな感じでまともには逃げないと思っていたのだ。ひょっとしたら、小牧のグレイトジャーニーとかがハナを切るのではないか、とも。 マイネル・コスモの岡田オーナーが今回の皐月賞・ダービーで勝たせたがっているのはいろいろなインタビューなどから考えると明らかに「道営の星」ことコスモバルクで、バルクはもともと府中の2400mだと距離不安のある先行馬だから、作戦としては、マイネルマクロスがスローに落として逃げて、バルクが早目に抜け出す、というものだと思っていた。道中スローで直線だけの競馬にでもなれば、差し・追い込み勢には出番はない。 しかしながら、実際のレースは後藤がちゃんと(?)逃げて、パドックからイライラしていたバルクは引っかかってしまった。北海道との気温差や長距離輸送、ダービーというレースのプレッシャーなど、考えてみれば「人気にするにはリスクが高すぎる馬」だったのだと思う。五十嵐騎手は「自分のミス」だと言ったらしいが、あの状況ではムリに抑えることもできなかっただろうし、少々丸め込んでみたところで、掲示板もなかっただろう。そもそも、掲示板には先行馬は全然載っていなかったわけだし。 しかしながら、最後の直線でバテバテになりながらも、必死に前の馬に喰らいついていこうとするバルクの姿を見て、僕はこの馬のことが好きになった。人間の思惑はさておき、この馬は勝ちたかったんだな、と思ったのだ。 それにしても後藤、空気の読めないオトコ… もっとも、勝ったキングカメハメハのアンカツだって、「馬に勝たせてもらったレース」だと言えなくもない。今日のキングカメハメハの直線入口で先頭に並びかけるというレースは、明らかに仕掛けが早かった。ハードなレースで、最後はみんなバテバテになってしまったのと馬の能力で押し切れたが、ゆったり乗れていれば、もっとラクに勝てたような気もする。 それでも、「勝った」という事実にかわりはないし、勝負の世界は結果がすべてなのだけど。 勝って戻ってきたアンカツの表情があまりに満面の笑顔で、久々にこんなに嬉しそうな顔の人を見たな、なんて思ったり。 ハイアーゲームは、本当に惜しかった。でも、蛯名は徹底してキングカメハメハをマークしていたし、鬼気迫る騎乗だったと思う。勝ちにいった分だけ、最後脚が上がってハーツクライにも差されたわけだが(馬券的には腹が立たないこともないけど)、「ダービーに勝ちたい!」という気持ちはすごく伝わってきた。内容的には、「負けて強し」と言えるだろう。カメハメハを意識しすぎなければ、2着はあったような気はするけど。 対照的にハーツクライは、自分の競馬に徹して2着に突っ込んできた。まあ、横山典とツルマルボーイでおなじみの「勝負が終わった後の豪脚」だったわけだが。でも、さすがトニービンの孫、府中は走るよこの馬。 ただし、こういう競馬しかできないと、菊花賞とかは危険な人気馬になりそうだ。 2着から7着までがサンデー産駒だったり、久々に追い込み馬の出番があったりで、なかなか興味深く面白いダービーだったのだが、残念なこともあった。 マイネルブルックの予後不良とコスモサンビームの骨折。マイネルブルックは、きさらぎ賞の最後の脚が使えれば、ダービーでも面白いと思って馬券も買っていただけに(そして、あの映像を見てしまったために)、非常に残念だし、コスモサンビームも朝日杯、マイルカップとお世話になっていただけに悲しい。岡田代表にとっては、悪夢のようなダービーだっただろうと思う。 もちろん「タイムが出すぎる馬場」というのは問題なのだろうけど、ダービーというのは、それだけみんなが必死になるレースなのだ。 繰り返すが、競馬というのは残酷だ。地方馬の夢は打ち砕かれ、NHKマイル優勝馬は来ないとかいうジンクスは破られた。この間まで「地方騎手」として中央の騎手たちに目の敵にされていたはずの騎手が、地方馬・地方騎手の挑戦を退けて、「中央競馬の牙城」を守ってみせた。去年デムーロが勝った時点で、「牙城」なんて無くなっていたのかもしれないけれど。 そして、「叩き上げの馬」がサンデーサイレンス(もしくはキングマンボ)の良血に勝つ姿を夢見た人々の夢は、またも無惨に散った。 でも、そういうふうに残酷だからこそ、競馬は人生に例えられるのだし、そんな中でごく稀に具現化されるドラマに、人は酔うのだろう。 寺山修司は、「さらば、ハイセイコー」でこんなふうに書いている。 【ふりむくな ふりむくな 後ろには夢がない ハイセイコーがいなくなっても 全てのレースが終わるわけじゃない 人生という名の競馬場には 次のレースをまちかまえている百万頭の 名もないハイセイコーの群れが 朝焼けの中で追い切りをしている地響きが聞こえてくる】 さて、あと何回ダービーを観られるかな。 ...
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