不意に、と言うよりは本当に唐突に、思い出したストーリーがあって、其の出典が何処かわからずにいるのがもどかしい。作者は乙一であるような気がしているのだけれども……タイトルが思い出せない。手持ちは『GOTH』と『失はれた物語』に二冊だけで、この中に載っていないのだから『ZOO』か何かなのだろうか。でも、もしかすると、著者も違うのかも知れない。
洗濯日和。 朝から蒲団を干して、昼過ぎには太陽の匂いをふんだんに含んで、ふっくらとふくらんでいる真綿。灼けつくような陽射しも、少しずつ和らいできている、かしら。 洗剤の香が寝起きの鼻腔を擽った。
何処で読んだのかなぁ……。如何しても、出典が思い出せない。
スケジュール帳と睨めっこする日々が続く。中学時代の友人と食事に行く約束をしていたのに、残念だ、断らなければならなくなるなんて。いつだって、そう。いつもそうだったから、きっと彼らは気にも留めないのかも知れない。それとも常から呆れていたのだろうか。 コミュニケーションは、置かれている環境や立場を無視して進行していくものだ。其処に、理解は及ばない。
両親の不仲で、子供は父親が其処に居るのに「居ない」ように接する母親の影響を受けて、やがて本当に父親が「見えなく」なってしまう、そんなストーリー。もしかすると父親と母親が逆かも。記憶は何時だってあやふやだ。 最近の 子供が親を害する 事件を見て、思い出したのかしら。切っ掛けも、何時だってあやふや。
夜が長いから、秋は思考するには持って来いなのかも知れない。北国の季節は、冬以外はさっさと走り抜けてしまう。廻る季節は確かな存在感を、残しているかしら。
あー……駄目だ、考えれば考えるほど乙一じゃない気がしてきた。誰の作品かな……。
無用心だ。他者に対しても、自分自身に対しても。
最近の暑さの所為か、それとも猛暑とは全く別のところで螺子が緩んでいたのかも知れない。なんて、こと。吐気がする。夕立は何時だって激し過ぎて、私は窓越しに見詰めることしか出来ない。飛び出していきたいのに。其れは、叶わないのだ。夜の匂いが私を描き立てる、駆り立てる。ただ其れだけ。 もっと早くに気が付くべきだったのに。私は、判断出来るだけの材料を持っていた。筈だった。迂闊だった。軽率だった。夜の闇にやがて昇る朝の光を忘れてしまったくらいには。
何処か、遠くへ行きたい。そういう思いは何時だって持っていて、其れを実行に移せるときは限り無く少ない。遠く。私のことを私だと知っている人のいないところ。 九月になる前に、港町へ行こうと思う。港町。昔の活気が気配だけに残る、静かな街。賑やかさは飽和する空気の外側にある。運河と、煉瓦の、小さな街へ。
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