※いわゆる総悟くん結核話/カップリングは混戦模様
s y r u p
だから言ったのに、と、銀さんの声が聞こえた。僕は間違ってない。
「けろっとしてると思ってたんでしょう」
お生憎様。明るい窓辺に凭れた頬はやつれていた。暖かみのある赤を地にした洋風の格子の膝掛けを、行儀良く掛けた沖田はまるで別の人だった。二十歳を過ぎたばかりのはずがとても年上のように思われた。言う通り、新八は甘かった。どこかではこの人のことだからと思っていたのだ。そして、裏切られたような気分だった。無性に腹が立った。それを殺すのにもひと骨折った。
「あんたとは話したくない」
「す、みません」
「嘘でさぁ。そのビクビクしたのは、俺の病とは関係ねえな」
沖田はあっけらかんと笑った。
病をすると誰も彼もが腫物に触るように扱う。遠い記憶だが、新八にも覚えはあった。道場の跡取り息子が肺を病んでちゃ親父殿も堪らんだろう。子どもの時分は丈夫な方じゃなくて度々そういう態度に出会ったものだ。廃刀令で道場がもぬけの殻になった頃にはその咳もぴたりと止んでいた。皮肉な話はよくある。
子どもの癇の咳ですらそうなのだ。もし、治る見込みがないとすれば、人はどんな顔をするだろう。やめときなと銀時の言ったあれはそういう意味だった。お前にどうってことない顔ができるはずがない、だからやめときな。思い返すと悔しさが込み上げた。確かに銀さんの心配の通りになった。だけど、来なければ良かったとは思わない。自分も思わないしこの人も思わない。それなのにあの人は止めた。
「旦那は来ないんでしょうねえ」
「そのうちぼけらーっと顔出すかも知れませんよ。あの人はわからないから」
「会いてえなあ。来てほしい。けど来ねえ方がいいな」
「どっちですか」
「旦那が来たらしようと思ってた話、あんたにしようかな」
嘘だ。それくらいすぐにわかる。新八はわざと空惚けた。
「入り口で、山崎さんを見かけましたよ」
「こっちへ来な」
招かれて傍へ寄ると襟元をぐいと掴まれた。
自身の重さに耐えられないでか勢いでか、沖田はそのままごろりと床に転がった。引き倒される形で新八も畳に手を着いた。覆い被さるように顔と顔とが近かった。沖田から濡れた羊歯の匂いがした。
「怖くねえのかい」
「なにが」
「こいつぁ伝染り病だぜ」
声の震えを読まれた気がした。頭がカッとなってそのままその口を塞ごうとした。噛み付くように近付けた唇は斬り逢うように鮮やかに躱された。いま、自分はこの人に殺された、刀を持っていたら胴が二つに分かれていた。そういう美しい間合いだった。病床にあることを忘れさせるに充分だった。沖田はそして驚くほど強い両腕で新八の肩を引きつけ押さえた。肩に埋められた口元から零れ出る息は熱かった。
「土方さんの」
試すような言い方をされてまた苛ついた。自分は何をしに来たのか、銀さんは確かに止めたのだ、それを振り切ってわざわざここまで何を。答えは近くて遠い。分かっているのに分からない。
「あの人の隊服からは、いっつも外の匂いがするんでさぁ」
沖田は溜め息のように大きく呼吸した。肩に掛けられた手は大きくがっしりとしていた。二年前に出会った頃より益々強健に育っている。決して細っこくもか弱くもない、刀で人の骨を断てる手だ。不意に新八は、この人を可哀想だと思った。大人の、立派な男の、秀でて技も有る手が自分の肩口に縋っている。
肘を折って新八は小さな頭を抱え込むように沖田を抱いた。恐らく土方がそうするように、しっかりと沖田を閉じ込めた。
「冷たくて、そのまんま布団の中に入ってくると、裾から風が吹き込んだみたいに寒くて」
「‥‥それで」
「背中にぴったりくっついて、じいっとしてんです。初めは触わってるとこひんやりしてね。そんであったまったら勝手に出てくんでさぁ。猫みてぇだ」
「それが、銀さんにするつもりだった話ですか」
意地の悪い自分の声を聞いて、新八は怯んだ。ああ抱けるなと、そう思った。この人を抱いてしまえる。この人が目に涙を溜めてもう赦してと助けを乞うたらと考えれば簡単に熱が上がる。それが怖いと思った。自分はまだ、自分の知らない何者かに変われる。
「あの人は来ないよ」
「ハ、なんで」
「僕のもんだからですよ。僕の男だから、貴方に何にもあげられない」
沖田は答えなかった。その沈黙は満足気だった。だから嘘だといったのだ、その話は初めから、僕に聞かせるものだった。
「じゃああんたでいいや」
「嫌だと言ったら」
「別に。俺は土方さんが可愛いから。あと山崎も」
「銀さんは僕んですよ」
「あんたは違うのかねえ。誰かのもんじゃないんですかい」
首筋に口を付けると息を止める気配が分かった。沖田の薄い皮膚に触れる自分の舌を熱いと思った。引き攣れるような、捩じ切れるような、破れるような細い細い鳴き声が虚空を撃った。雑音のように耳を引っ掻き回す嗚咽の中でやっと、はやくしにたい、と沖田は呟いた。
きっとこの世でこの人の、今の言葉を聞いたのはただひとりだ。自分ひとりだ。きっといつもの調子で愛想なく、寒いんだと言って布団に潜り込んだあの土方のことを考えた。きっと一言も交わさず追い返されて、それでも休まず訪ねてくる山崎のことを考えた。近藤が見舞ってくれれば一緒に泣ける。死にたくない、死ぬのが恐いと赤ん坊のように我が侭を吐ける。だけど新八に言った一言だけは、決して胸の内から洩すことはない。
怖い、帰りたかった。銀さんの言った通りだ。沖田の薄らと汗を掻いた痩躯は疲れて震えていた。新八は窓の障子を閉めた。途端に布団から病の匂いが立ち篭めて、息苦しさに新八は喘いだ。離れようとする沖田のやけに乾いた手を掴む。そう、そこだけが乾いていた。どんな甘い水に浸しても渇きかつえたまま、その手は遣る瀬を探している。
(了)
と
し
し
た
せ
め
!
(という問題だろうか)
(新沖は何故いまいちマイナーなのだろうか(沖新に比べて))
新八十八×沖田二十歳 というのに萌えすぎて途中もうわけがわからんくなった。
というかもはやこれは二次創作であろうか。こんなぎんたまありか。
ありなしで言ったらまあホモな時点で大分だめですが。一応お約束だしね、結核パラレル。
あるいは土山萌えで山沖萌え。だったら書けばいいよ!そして銀沖萌え。
2006年01月25日(水)
■ rit. ■ Yの思い出
「柳お前、詩を書く女とつきあったことある?」
そう言って、詩そのもののように痩せた裸をソファへ横たえた幸村精市は、フローリングに薄らと溜まったポエティックで象徴的な埃を掌で撫ぜた。
夏は雨ですっかり脂を落とされ面白味もなく灰色の冬が眼前にはあった。が、夏でないだけの冬なのでやはり別段寒いと言うこともなく、だからとにかく面白味もなく、まるで詩のようにすべてが退屈なのだった。
幸村精市の得意科目は英語・数学・美術だ。精市はこの世のあまねく浸る叙情を憎んでいる。
「そう言えば無いな」
「あのな、詩だよ? どうなんだ。俺にシネとでも言うのか」
「詩を書く女よりお前はよっぽど極端だ。『度』を越しているぞ」
「そう『くだらない』から嫌いだよ───お前の揚げ足取りは」
そして再びポーの遺骨のように白い埃を掌で攪拌しながら、精市は裏返った声で正確にフライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンの歌い出しをなぞった‥‥ドからファへ下って。
「お前の付き合いの良い所は好きだ」
「そうね、つきあって、しまえと思ったのが間違ってた」
病室の次、という名誉に与った神奈川県S市(仮)のアパートメントは詩に塗れ、詩が糞のように塗れ、英語で綴るとfxck,でもfxxxxxxck,でもなくもうFXXXXXXXXXXXXCK!!! になってしまっているので、精市の脳裏からは片時も詩を書く女の瞼の色が離れない。
薄い神経質な紫だ。淡く優しいように見せながら、きらめきの一片一片は薄い金属で出来ていて、なにものをも受け付けない。瞼の際から少しずつ控えめに白を備えてゆく。それは革命のように着々と進行している。
「思ったからには理由があったのだろう?」
「あーあのですねー」
フェラチオをする時に、しながらこう、ヘアピンをね。
なんとなく抜いて、で、ポイポイッとさあ、
その辺の床にね。捨てちゃうのが良かったんですよ。コホン。
「ほうそれはそれは」
「あーいや別に詩でもいいんだけどさーなんでもさー」
ぼりぼりと掻きむしるその艶のない髪に、今もしこの手にヘアピンがあれば深く深く突き刺してやるのに。
−−−+−−・−+−−−
「たまんねぇなあーこんな澄ました顔しちゃってなー」
「そうそうー」
「何が言いたいんだ」
「水臭いよ。ひとこと言ってくれたら良かったのに」
「それとも何、本当は恥ずかしかったの? 意外にハートは純?」
「大丈夫だって。いくら俺らでも友達をいきなり犯したりしないよねー」
「しね!」
高等部1年F組(仮)の昼休みは相も変わらず男クラの哀愁たっぷりに今日はついに男(※幸村精市)を男(※その他クラスメイト)が花に集うみつばちのごとく囲っていたので真田(←女クラ)は、
「今度はなんだ」
とたまたま近くに居合わせた友人=柳蓮二(←女クラ)に苦々しい面持ちで尋ねたところ、
───その時幸村精市は弁当の冷凍ミートボールを箸で突き刺して頬張りながらある種可憐とも言える満面の笑みを絶やさず「しね!」とか「ブタ!」とか言って、かかとを踏みつぶした上履きで、ブルドーザーのように迫り来る机やら椅子やらを押し退けたり蹴倒したりしていた───
「このAVの女優が精市に激似なんだ」
「げきに?」
「激しく似ている」
───柳蓮二は複製と思しきラベルなしのDVDケースを人指し指と中指の間でかざして微笑んでいた。そして正にこのAVとはいたいけな美少女(※幸村精市)に皮革製の装束を着せ手錠、鎖、果ては馬具などで自由を奪い尚且つ羞恥を味あわせる若干マニアックな嗜好の無修正ポルノムービーであり美少(略)のぷくりと己を主張する薄紅色の乳首は男の唾液に濡れそぼってか弱く震え、匂い立つような青い茂みから薄らと透かして見える岩陰の割れ目の最奥からはひたひたと絶ゆることのない岩清水が蜜のごとくとろめきながら溢れ出で───
「ていうかそもそもSMだろ、まず貸せ、貸さない理由があるかお前ら、幸村精市さまに?真っ先にこの俺以外の誰かが見るべき理由が、あるなら述べてみろこのブタ共が!!」
「蓮二、それは」
「ん?」
「『似ているらしい』とか、『似ているそうだ』とかではないのだな」
_____↑推量 _____↑伝聞
柳蓮二は好青年然とした朗らか且つ慎み深い声を上げて短く笑った。真田がこの男をぶち殴ることに実際成功したのはこの時を含め中学三年間と高校三年間を合わせてもたったの二回であった。
−−−+−−・−+−−−
あなたがすきで、むねがくるしい。
あなたがすきで、むねがくるしい。
あなたがすきで、むねがくるしい。
でもそれはうそ。ゆめを見ただけ。
「それじゃあ」
言葉の後にすぐ唾を呑む音が聴こえた。
「ん?」
「‥‥どうもこうもない」
「んー」
「付き合う理由が‥‥それでは、要するに付き合う前にそのような───行為をさせていたということだろう」
「んん」
「‥‥適当な相槌なら打つな」
溜め息はどうせ何かをごまかしているに過ぎないと、顎の裏に染みた苦味を舌で撫でればそれ、その息も震えた。
真田の硬い太腿はいつでも柳を拒絶したし、低い声はいつも柳を恫喝した。勃ち上がった性器の熱だけが唯一と言って良い付け入る隙間で、そのことを真田はまるで理解していなかった。真田自身は全身と全精神を懸けて柳蓮二を受け容れているつもりだった。いつでもだ。
「弦一郎はどうだ。詩を書く女は好かないか」
神奈川県S市(仮)の地上八階に浮かんだ六畳分の埃。その白さは今はもう柳蓮二の記憶の中だけに留まり、新しい住人の恋人は几帳面にそれを払うので、思いではなんとなく空虚だ。意味を奪われてしまったようだ。本当は、そもそも思いでに元来意味はないので、空虚なのは幸村精市の元いた場所なのだった。(つまり柳蓮二の中の一部と、真田弦一郎の中の一部。)
そういうのを淋しいというのだと、教えてくれる人は幸村精市だった。ただこの部屋の鍵を変えないままキーホルダーに括り付けた柳に真田はそれを教えず、柳も真田に教えることはしない。よって淋しさは宙ぶらりんに詩、フェラチオ、その他の断片とともに無造作に一見無脈絡に保存されている。
柳の中に、真田の中に、保存されている。いつでも参照可能な形で、そのためのキーを待っている。
「判らん」
「そうか。だろうな」
「そもそもそういう女の方で俺を好かないんじゃないか」
真田の硬い掌が胸の辺りを這い回る。精市が朗読してくれた詩の中に一篇、その他の物と違うものが混じっていた。同じ顔の五つ子の中でひとりだけが心なしが不格好であるみたいにそれは悲しかった。真田の愛撫を受ける時、柳はその詩を口ずさんでいる。
置いていかれたから抱き合ったわけではない。ただ目隠しが外れたように、目の前にあったものがお互いでしかなかったと気が付いたからそれを許した。幸村精市の十六歳はこの日本の空にはなかった、誰もがそのことに気付いていたし、無視していたのは単に怯えていたからだ。新しい季節から逃れることは誰にもできない。背丈が伸びなくなってからも月日は冷ややかに、自分達の外皮をめくり奪っていく。
「俺は好きだぞ、弦一郎」
真田が顔をあげる。驚いているのは、何を今更言い出すのかと、きっとそういう意味だと思う。だけど時々不確かになるのだ、伝えたことがあったろうかと。真田の手が背中とソファの間に入り込む。それでも服を着ている時に死んでしまったら、愛しあっていたかどうかなど外からは誰にもわからない。
唇を合わされて目を閉じる。貪欲に辺りを踏み荒らしていく厚い舌は、日頃涼しい顔で隠されていることが不思議なほど剥き出しだった。
全ての人間が欲望の上に服を着ている。かれの服を脱がせることができるのは自分だけだという、高慢が人を恋に陥れる。喉の奥に誰も触れてはいけない場所があって、真田の舌先がその傍を掠める度に、吐き出すように想っている。
「詩を書いてやろうか」
「やめろ。本気なのだろう」
心から嫌そうに顰められた太い眉の下で、潤んだ目の縁が厭に赤かった。耐えられないとかつては思ったあらゆる剥き出しのポエティック。思いでを参照するためのキーは、性的な体の内部にしか存在しない。
(fin.)
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真田萌え+[幸村と柳]萌え=真柳。
柳に乙女ティック*恋*ポエムを献上される真田萌え。真田激しく萌え。
男性からセクシャルハラスメントを被る幸村精市と爽やかな好青年柳萌え。
柳は高好感度なら高好感度なほど萌えるよね!とあからさまに主張したい。
2006年01月15日(日)