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2005年08月05日(金) ■ |
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物部日記・『ヘルレイザーは静かに十字を切り・2』 |
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前回までのあらすじ 帰り道。自転車中破。家まで残り十二キロ。
何かおかしい。ペダルに力を込めても力を込めてもまったく進まない。何しろ前輪と後輪が同時にパンクしていて摩擦係数がとんでもないことになっている。 車輪のついた機械の最も重要とされる足回りが完全に壊れているおかげで加速しない。ハンドルが安定しない。ガクガク揺れる。
帰りてえ。どこか知らないところに帰りてえ。 しかし帰るにはまだ一時間以上自転車をこがねばならない。
なんでこんな苦行を体験しているのか。 今年はどうも変だ。トラブルが多すぎる。ちょうどリルリルが引っ越してきたあたりから妙にトラブルが多い。ああ、リルリルか。確か軽トラック運転してたよなあ、あの人。
呼ぼうかな?
……あ、彼女携帯持ってないわ
時刻は日付変更線が近付いていた。
時間にしても、場所にしてもシチュエーションにしても、残る体力にしても、実はこういう時一番必要なのは精神力だと思っている。 体を動かす、こういう時に必要な瞬発力を持続させる力と言うのを、私は便宜上テンションと呼んでいる。それのある人間は強い。例え疲れていてもノリノリで進めるのは、それのおかげだ。しかしそれがなければ人間ささいなことにも力を出せなくなる。やる気零になってしまう。 で、今の私はと言うと、自転車のタイヤが使い込みすぎて破裂したのと同時に体から精神的なものも抜けていったりしている。
ちくしょう、疫病神でもついてるのか。
空腹にも耐えられなくなり、今夜はここで野宿しようかなあ。なんて本気で考えていたりしていると。
何かが見えた。 あの灯りは、何の灯りだ?
その光を、私は知っていた。 コンビニエンスストア。
よし、休憩だ。
がくがく上下にゆれる自転車にまたがって何かお腹に詰めようと店内に入る。駐車場はすいており、原付が一台止まっているだけ。この時間帯だ。客入りも少ないのだろう。自動ドアが開き 「いらっしゃいませこんばんは」 店員さんに気付かれる。 中に客は二人。 私を入れて、二人。
もう一人は、ジャンプを立ち読みしていた 彼女はこちらに気付くと 「こんばんは」 と会釈した。
ヘルレイザー・鎌足さんだった。 続く
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