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海老日記
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2005年10月26日(水)
物部日記・『暗闇の嘘吐きと十字を切る彼女』

 前回までの反省  お前、明日から再開すると言って置いていきなり放置とは何事だ


 前回までのあらすじ  夜中、自転車が壊れる。自宅まであと自転車で一時間の距離。立ち寄ったコンビニに、隣の部屋に住むミステリアスな女性、ヘルレイザー鎌足さんと出会う。今回わかったこと。鎌足さんはジャンプを立ち読みする人だということ。





「じゃあ、物部さんはいつもこんな遅くまで練習されているのですか?」
「練習というより、みんなが帰った後の鍵締めとか、掃除ですね」

 何故か知らないけれど、今ヘルレイザーさんと一緒に帰っている。
 私はパンクした自転車を転がしながら。
 ヘルレイザーさんは付き合って原付を押してくれている。


「私はサークルに二つ入っていて、一つは文芸サークル海老銃って言うんですけれど、もう一つ高知大学吹奏楽団もやってるんです」
「……オーケストラ?」
「いえ、ブラスバンドの方」
「……うーん、どう違うのですか?」
「……うーん」

 二、三秒考えて
「吹奏楽にはバイオリンがありません」
 多分的確なことを言ってみた。
 なあるほど。と笑うヘルレイザーさんを見て少し、意外だなと思った。

 突然私の前に現れた不思議な感じの女性。しかし、その性格は人懐っこく社交的。まず間違いなく社会人なのだけれど、何故か親近感が沸く。
 相棒であるゆうさんともこんなに口数が増えたりはしないのに。
 たまにいるのだ。こういう、人の間合いに簡単に入ってくる人というのは。私はこれはもう一つの才能だと思う。
 対人関係というのはなれだと人はよく言う。私も、究極的にはそうなのだとはわかっているけれども、それでも最初の段階から人と仲良くできる人はすごいと思う。結局のところはただ、人よりも少し仲良くなるのが早い、というそれだけのことが、その早さこそが誰もが欲しがるものなのだ。

 人に自分のいいところを見せようとするのは、同じくらい自分の悪いところを見せなければならないもので、それに耐えられる人間は、凄いと思う。

 私には、できない。


「で、まあ十月に演奏会があるので今練習が結構本腰入れ始めてるんです。で、帰るのが遅くなるし。私自転車ですからね」
 ヘルレイザーさんはひどく驚く。
「朝倉に毎日自転車で行ってるんですか?!」
 よく驚かれるが私としては
「まあ、なれました」
 本当に、車なり原付なりが欲しいところだ。(作中ではまだ六月。物部は車をまだ持っていなかった)
「でも、今は自転車でよかったって思いましたね。ほら、4月は新入生に向けての演奏会があったんですよ。それで毎日遅くまで練習してて。もしあの時そんな免許のいる乗物に乗ってたら南国市に帰ってくるまでに三回は事故起こしてましたね。だから自転車でよかったかも」
 笑いながら言うと
「ええ、本当に」
 ヘルレイザーさんも笑っていた。


「だって、死相が出ていますもの」



 ……はい?