2010年07月24日(土) |
面白い本があればこの世は極楽 |
驚いた。 佐藤賢一『王妃の離婚』が予想の数倍上を行く面白さだった。 フランス王ルイ12世とその妻ジャンヌの離婚騒動は、歴史的事実として結果はわかっているわけで、途中でこんなに盛り上げちゃっていいのかと不安になったりしました。民衆は勝手に期待して勝手に裏切られたつもりになるからさ。
主人公の過去の栄光と現在の中途半端な境遇と、47歳という年齢がツボ。 田舎とはいえ弁護士なんだから結構なインテリ職だけど、それを誇るにはあまりにも、才気にあふれて周囲からも期待されてた学生時代の記憶がまぶしすぎ、野望もないのに能力が衰えてなさ過ぎる。 本来デキレースだった王と王妃の離婚裁判の場で、全部をうっちゃる勢いの主人公の弁舌、傍聴席の熱狂、王妃の毅然とした態度、すべてが爽快でストレスふっ飛ぶ。 そして後半登場する原告であり現役フランス国王たるルイ12世のダメっぷり!もう男としてカス!人としてチンカス以下! 「君は本当にバカだな」という言葉はこの男のためにあるのではないか。
しかし強く賢くあらせられる王妃は、弁護士との会話で彼のことをフォローしたりもするのですよ。強く賢い女によくあるダメ男マニアかと思いきや、その真意にぐっときたり納得したり。 結婚に対する女性のスタンスや複雑な感情描写が、微に入り細にいり的を射ていて、著者が男性とは信じられない。これこそが直木賞受賞に値する才かと思う。
貴腐人のご同輩にすすめたい部分は、主人公と、昔の恋人の弟であり教え子でもあった近衛隊長の、愛憎あふれまくって逆恨みがうっかり相愛な関係。 近衛隊長は敬愛してた先生が姉に手を出したことを恨んで怒って、職務とあいまって主人公にとんでもないことしちゃうんですが、ただの体育会系バカではなく強固な意志を持った体制の犬なのです。 主人公は少年時代の近衛隊長の姿や一途な慕いっぷりを回想するたびに心を許しそうになるんだけど、二人の間には大きすぎる喪失の事実も横たわっていて、歩み寄りを妨げたりもしつつ、ぶっちゃけ盛り上がるったらないよ!
当然といえば当然なんですが、楽天や密林あたりにはあんまりこの部分に触れるレビューはないので、見落としてる師弟マニアの方もいらっしゃるのではないかと思いまして、老婆心ながらお勧めいたしましてよ。 この小説の中で一番純粋な人は近衛隊長かもしれない。
ああこれって1999年に出版されてたんですね……。 数年前にブクオフで100円で買ったんだけど、長い間行方不明で、ようやく発掘されたのです。今なら文庫もあるよ。 次は同時に発掘された海辺のカフカ読むよー。 子供が夏休みの間に私もすこしまじめに読書したり漢詩の勉強する予定でおります。予定ってとこが逃げ腰だけど。 漢詩のテキストはやっぱり受験用がいいのかな。いやここはエネチケの漢詩紀行か?でも1回5分ってまだるっこしいよねー。
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