| 2009年11月18日(水) |
何を考えている……。 |
当営業所の管理職(51)が行方不明だ。 営業所の金の一部と納金の一部を持っていなくなってしまった。 実は、この人はこの二ヶ月前にも同じことをしている。 競馬での資金繰りがうまくいかなくなり、いろんな人に借りるために営業所を無断で休み、家族には出社しているとうそをつき、三日ほど行方をくらましていた。 四日目に所長と面談し、親類から五十万を借りることで借金を帳消しにし、がんばってまた働くことになった。 本来であれば、会社の上層部に伝われば明らかに懲戒解雇の案件ではある。 けれども、今回だけは、ということで所長もわれわれも眼をつぶった。
しかし、二ヶ月目にしてこれだ。 いったいどういう金の感覚をしているのか。 誰しもが思う。 今は営業所内ではインフルエンザにかかっているとして一週間程度休んでいることにしている。 だが、一週間たっても結論はおそらく出まい。 本人が出てこない限りは。
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この人には、実は恩がある。 まあ、それも社会的常識の範囲といわれればそれまでだが、彼には、上の子が腕の骨を骨折した際に、遅刻を認めてもらったり、当直を代わってくれるという申し出をしてくれたりしてくれた人だ。 金にこずるいタイプ、とは違うと思いたい。 実際、うちの乗務員にも、人間のくずかと思うようなやつもいる。 追突されて首が痛いのはいいが、あまりに通いすぎて医者から精神安定剤を処方されたりする。知識がないくせにお金になりそうなことがあると周囲に何の恥じらいもなく無理なお願いをしてみたり。 そういう人間も見ているから、明らかにそいつらとは違う……とは思いたい。 しかし、この現実はどう捕らえればいいのだろう。
二ヶ月目にして二度目。 今までの彼の行動を見るかぎり、二度目というのは覚悟を決めているに違いない。 実際、家のほうにももう帰っていないという。 もし、夜逃げするのであれば、持ち逃げする額としては少なすぎる。 家族を捨て、会社を捨てて逃げるわけだから、もっとやっていてもいいはず。 思うに、実は彼の借りていた借金は50万ではなく、もっと多額で、なんとかして工面するために一発逆転で勝負をいどんだのではないだろうか。 そして、敗れた……。 実際、奥さんの元には一回だけメールがあったとのこと。 「会社の人間にも、お前たちにも迷惑をかけている。すまない」 この一文。 それ以後は彼はまったく消息が途絶えている。 最悪は、彼は命を絶ち、その生命保険で借金の穴埋めをすること。そして、会社への返済をすること。 もしそうだとすると、おそらくもう実行に移しているはず。
残された奥さんと、二人の子供はどうなる? マンションのローンは?(これは本人死亡の保険金で払えるらしいが) 自分の子供を愛しているのを知っているだけに、そして、この前もおいらが教えたパスタのタレをみんなで食べて、おいしかった、と喜んでいたよ、と報告を受けているだけに、なんともやるせない……。
会社に来てお金を返せば、依願退職。 会社に来てもお金が返せなければ、懲戒解雇。 いずれにせよ彼にこの会社に残る道はない。 しかし、それでもどこかでやり直せる方策が取れれば。 彼がとりあえずは生きていることを願ってやまない。
メインの日記には他営業所の乗務員さんもいるのでかけない。 ここで、自分の感情をまとめてみた。 当直は増えるから家は大変になる。 仕事も膨大に増える。 それでも、完全に彼を憎みきることができない。 ほかのメンバーは完全に憎んでいるようではあるが、おいらにはそれができない。 それはひとえに、彼に環境が近いから。 守るべき家庭もなく、子供もいない輩が彼の苦労を知ることはできない。 もちろんやっていることはとてつもなく悪いことだ。 しかし、生活苦になり、そうやらずに生き延びるすべが見出せなかったとき。 自分は彼と同じ選択をしてしまうのではないか、という恐怖心。 そして、その批判する連中より、背負うものが多い分彼と環境が近いおいら。 非常に身につまされるものがある。
なんとか、生きていてほしい。 生きてさえいればどうとでもなる。 世の中の四分の三がいんちきでできているこの世界。 でも、逆に言えばいんちきである以上いんちきで対抗できる。 早まらないでほしい。 子供がかわいそう過ぎるよ。
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