風が吹いていた。 空の上では、きっともっと強く吹いているに違いなかった。 雲間から、月灯りが一瞬差したように感じた。 思わず見上げてみる。 見上げた瞬間、分厚い雲が空を覆い隠していた。 その、繰り返し……。 次は逃すまじ、と雲を見据える。 強く風が吹く。 思わず、顔を伏せる。 一瞬、頬に光が差した気がした。 まだ強い風の中、うっすらとまぶたをあげる。 空は厚い雲に覆われたまま……。 月が見えたのは、気のせいだろうか。 見たい、と願う気持ちが、まぼろしを見せていたのだろうか。 強くまぶたを閉じる、ギュッと。 まぶたの裏に、月を思い描く。 その月はまぶたを離れ、心の天頂に駆け上ってゆく。 白い光が、暖かく私を照らしている。 ……心地良い。 風に吹かれた髪が頬を叩き、まぼろしの月は瞬く間に消える。 現実が頬を叩く。 体をすぼめる。 風が冷たい。 本当の月は、いつ、どこで、ここを照らしてくれるのだろう……。 雲の切れ目を探して、歩き続ける。 一歩、また一歩……。
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