くじら浜
 夢使い







台風の目 ( 2000.8/14 の複写 )   2001年09月13日(木)

昨日のお題が”目”だったにも関わらず,
目について書くのを忘れていた。
目とは,そう”台風の目”の事で,
実は私が台風の時一番好きなのがこの台風の目なのです。
猛り狂う天の神がほんの一瞬だけ休憩をする神秘の空間。
闇の中におりた一筋の光。

台風の通り路だった私の田舎は,
それゆえに”目”に遭遇することも多かった。
それが来る時は決まって正午近くで,
当時台風の時はガラス戸も雨戸もみんな閉めきる為,
昼間でも蛍光燈を付けていて,時々停電するとロウソクを灯していた。
家族全員暇をもてあまし,停電なのでもちろんテレビもつかず
ラジオから流れる台風情報をただぼんやりと聞いている。

すると・・・・,
突然外の騒音がピタッと止む。

私達はお互いに”来たか!”と顔を見合わせる。
私は急いでロウソクの灯を消し縁側のガラス戸を開け,
そして雨戸を一枚静かにひらく・・・・。

真っ暗だった家の中が太陽の光線でいっぱいになり,
空を見上げると真っ黒な雲がひとつひとつ消えていく。
裸足のまま外に駆け出し,
私はただその大空を唖然として眺めているだけだ。
さっきまでの轟音も,爆風も,天の怒りも,
まるですべてが幻だったかの様に,
そこには静寂な空間だけが存在する。
雲が半分くらいなくなった頃太陽の光線はますます強烈になり,
私は辺りを見渡すと南の方に鮮やかな虹が奇麗に半円形を描いている。

しかし,その神秘の空間もほんの一瞬で,天の神は再び怒り猛り狂いだす。
そして私たちはまた闇の中に舞い戻るのだ。

一瞬ゆえに美しいのかもしれない。


2000.8/14






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