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優しいその人の音 2002年01月12日(土)
その人を思い出すときに いつも聞える音がある。
トントントン トントントン
その人はいつも機を織っていた。
昨日からの熱が下がらず、今日ぼくはとうとう学校を休んでしまった。 少年の頃は一日一日が貴重な時間だったように思う。 だから学校をたった一日休むだけでクラスメートから取り残されてしまうんじゃないかという不安と、 次の日に先生に叱られるんじゃないかという不安と、 頑張れば本当は登校できたかもしれないという罪悪感でぼくは布団をかぶっていた。 いつも兄弟で寝てる四畳半の部屋ではなく、母はトゴラの横の自分が寝る部屋に布団を敷いてくれた。 その隣の部屋では母が機を織っている。 トントントンという音を聞きながら、ぼくは不安と罪悪感と熱にうなされ天井の節目をぼんやり眺めていた。 もうろうとする意識の中でその節目たちはだんだんと広がっていき、ぼくを睨みそして圧迫する。 声にならない声で母を呼んだが、母は相変らず無言で機を織り続けている。
節目がとうとう目の前まで迫ってきた瞬間、ぼくは眠りに陥った。
トントントン トントントン
心地いい音で目が醒めた。 母は気配を感じ額のタオルを替えてくれて、また機を織り出した。
母の機織りの横の窓からはおでもり山が見える。
熱はようやく下がり、次の日にぼくは学校へ行った。
いつもありがとうございます。 今日また優しいあなたの音を聞きました。
トントントン トントントン
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