くじら浜
 夢使い







かさぶた   2003年10月15日(水)

幾層にも重なった雨雲は、
幼い頃度々つくったかさぶたを思い出させた。

あの頃母は厳しい人だった。
理にかなわない事をする僕を、
時計の掛かった部屋の角の柱に容赦なく縛りつけたり、
押し入れに何十分も閉じ込めたり、
そんな人だった。

膝小僧にできた傷のかさぶたを、
まだ生乾きのまま無理やりはがした僕を見て、
母は物凄い形相で叱りとばした。
治りかけていたかさぶたの下の傷は、
また見るも無残な程真っ赤に染まり、
その痛さと母の罵声で僕は泣き出してしまった。

母に叱られるのは恐かったが、
まだ乾かないままのかさぶたをはがすのが、
たまらなく好きだったのだ。
 ちょっと痛いけど・・

そして
いつの間にかその頃の母の年を追い越し、
気が付くと
いつの間にか母は優しい人になっていた。

雨雲が東へ散り南へ散り
すっかり乾いたかさぶたを母は静かにはがしてくれた。
かさぶたの下にはきれいに治った薄紅色の傷の跡が残っていた。





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